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如月司編END-5 ※薬物

 その後も理不尽なショーは続いた。  隼人が何故こんなにも浅ましいのか、不思議に思った司が尻を思い切り叩いても、その身体の大量のピアスを引っ張ったり、捏ね回したりして辱めても、隼人はその全てにカウパーを撒き散らして卑しい反応を見せた。  そうしているうちに、いつの間にか、白衣を着た老人も舞台にやって来て隼人の前に立った。久方ぶりに研究室から出てきた、オーナーであった。  この宴はスタッフ席から見物していたものの、辛抱堪らなくなったのだ。  オーナーは新たな“実験台”を前にして、数多の悪逆非道を見てきた目を子供のように輝かせていた。 「おお、おお。本当にずいぶん自己主張の強い小僧じゃなぁ。しかしまあ、これくらい活きが良い方が、皆も愉しめるというものじゃろう。これで儂の研究もはかどるというものじゃ。司、良い仕事をしたな」  司は既に、オーナーからの信頼も厚かった。神嶽が指導をした、という影響は絶大である。 「け、研究……あはは……なんだろな……楽しみ、れす……」 「うむ、そう言ってもらえると儂も嬉しいぞ、隼人。では、手っ取り早く今からお前さんを殺そうと思うのじゃが、元気な部分はこちらで有意義に使ってやるからな。安心して死ぬといい。ヒヒヒッ」  オーナーは無情に言い、黄ばんだ歯を見せて妖怪のように笑った。 (研究って……なに、するんだろう……? オ、オレ……どうなって……殺……される……?) 「ぁ……あははははっ……嘘、だぁ……」  ────オレはこれから、皆の前で見世物のように殺される。  あまりにも残酷な言葉が、隼人の頭の中でリフレインする。  今までどれだけ惨い目に遭っても、それこそ殺されそうになったことも数知れずだが、ただただ、死にたくない──その一心で耐えてきたというのに。  瞬間、引きつるような声と共に、ハッと我に返った隼人の常識が、音を立てて崩壊した。 「────っ!! や、いやだ……死にたくない! 死にたくないぃぃいいいいいっ! 助けて……学園長……司、司あああああぁぁぁああああっ!!」  このような悪魔の巣窟にいても、死という未来だけは考えたくもなかった。  隼人は錯乱し、大粒の涙を流し始めた。 「西條」  泣き叫ぶ隼人を抱き締めたのは、司だった。 「何も怖がることはない。オーナーがわざわざ研究に使ってくれると言うんだ、これは喜ばしいことなんだぞ」  子供に言って聞かせるような、穏やかな口調で司は続ける。 「それに、お前ならきっと、殺されながら感じて絶頂してしまうのだろうな……」  耳元でそんな恐ろしいことを囁かれ、隼人は──感じていた。  司の吐息に鼓膜さえ犯され、その言葉の意味を想像して、びくり、びくりと四肢を震わせる。もはや正気の沙汰ではない。 「ぅぐ……司……でも、オレ……やっぱり、死ぬの……こわい……こわいよ……うぅっ……うわあぁぁん……」 「……本当にお前は、小心者で、泣き虫な奴だな。大丈夫だ、何も怖い思いをすることはない。お前は今から、これまでの人生全てを忘れて、安らかに天寿をまっとうできる」  近づいて来たオーナーの片手にあるのは、司の父に使ったものと同じ違法薬物の入った注射器だった。  隼人がその命を抹消される際、なるべく苦しまずに逝ける、せめてもの救いの道具だった。  司が隼人の頭を押さえつけた。その隙に、オーナーが頸動脈へと注射器を突き刺す。  隼人の自我も、記憶も、この世に生を受けた意味さえ、何もかもを奪い去ってしまう恐ろしい薬物が、ゆっくりと体内へ注入されていった。 「あ……ぁ、が……おぉ……おほっ、ふひひぃっ」  目を剥いた隼人の瞳孔が大きく開かれ、血走った。そして、そう時間の経たぬうちに据わっていき、生の光を映さなくなった。  脳みそが溶けてしまいそうな多幸感と、ひたすらに虐げられる悦楽だけが、隼人の身を支配していた。 「うひ……うひあひひひ……ぶひっ、ブヒブヒィッ」  汗や、涙や、涎や、全身から汁という汁を噴きこぼし、人としての言葉すら奪われた隼人。  心の声だってもう聞こえない。既に理性を打ち砕かれた家畜奴隷と成り果てていた。

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