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如月司編END-6 ※グロ(断頭) ◆完結

 目の前で狂った幼なじみに何を思うのか、司は切なげに言いながら、慄く奴隷を抱き締める手に力を込めた。 「良いんだ、西條。……もう、何も悩まなくて、良いんだ。こうして、私が最期まで抱き締めていてやるから。お前も……楽になろう」  舞台幕が取り払われ、上方に隠されていたものが露わになった。  隼人が天を仰げば、そこには、二本の巨大な刃物。ギロチンがあった。  それに気付いた会員の誰かが、アッと声を上げた。パンフレットの概要にも載っていなかった特別な宴であるので、想像もしていなかった殺人ショーの開幕に、悲鳴すら聞こえた。  隼人の濁った瞳が銀色の鋭利な刃をぼうっと見つめる。  何をされるのかの想像はもう追い付かない。けれど、これから自分は、とんでもなく酷い目に遭うのだ──それだけがわかって嬉しくなり、声にならない笑い声をあげた。  神嶽が断頭台を操作し、容赦なく刃が落とされる。  息をつく暇もなく、隼人の頭が、ゴトリと鈍い音を立てて舞台上に落ちた。 「あ…………はは、は……」  目の前に広がる血の海。首から上がない隼人。  自身も血しぶきを浴びてしまった身体で、司は笑っていた。  司が達するのとほぼ同時。隼人の力なくぶら下がるペニスからも白濁が溢れ、彼が死の間際に絶頂を迎えていたことが伺えた。 「西條…………。お前……本当に、イッてしまうなんて……どれだけ変態なんだ……。っは、ははっ…………あーっはははははは!!」  腹の底から哄笑する司につられ、広間もドッと笑いに包まれた。  童貞卒業おめでとう! 良かったね! 素晴らしい! 最高だ!  凄惨な場に似合わない賞賛の言葉と拍手が、客席を飛び交う。 (修介……私……遂にやった……西條も、解放してあげた……。これで、お前の役に、立てただろう……?)  ────ぽたり。  司の頬を、一筋の涙が伝った。  もう二度と善良な人間には戻れない絶望からか、隼人が死んでしまった悲しさからか、クラブの、もとい神嶽の役に立てた嬉しさからか、それが何の涙なのかは、司自身にもよくわからない。  だが少なくとも司は、神嶽から一定の評価は得られていた────はずだ。  冷たくなった隼人の亡骸を抱きしめる司を横目に、神嶽はひっそりと舞台を去っていた。  全てのプログラムが終了し、舞台裏に戻った鷲尾も、何やらアタッシュケースを持ってクラブを出て行こうとする神嶽に声を掛けた。  立ち止まった神嶽は、この期に及んでも感情を映しはしなかった。 「神嶽様。もう、ご出発なさるのですか」 「ああ」 「如月司については、どうしましょう?」 「オーナーに任せる。あれの身体は隼人とは違い綺麗だ。存分に稼がせてからでも問題はないだろう」 「……そうですか。寂しくなります」  鷲尾は小さくため息をつき、心底残念そうな顔で私情を漏らした。  神嶽は、再びオーナーの命を受けた。だが、それに伴い表舞台を離れ、これからクラブ側と一切連絡を取ることもないと聞いていたからだ。  無論、司はまさか目の前から主とも言うべき男が居なくなるとは思っていない。  明皇学園で出会った司、隼人という二人の調教を終えた以上、クラブの所有物たる奴隷などにわざわざそれを伝える義務などなかった。  しかし、本当は鷲尾も、彼が今後どうするつもりなのかを聞きたかったが、ぐっと堪えて口には出さなかった。  聞いたところで、答えが返ってこないことは明白である。 「神嶽様。オーナーに代わって感謝申し上げます。……行ってらっしゃいませ」  深々と頭を下げる鷲尾を一瞥すると、神嶽は何の感慨もなく背を向けた。  行き先はオーナーにも、鷲尾にも、そして司にも。  誰一人として告げずに、神嶽は闇に紛れ消えた。  それがこのクラブにいる全ての人間が、神嶽修介と名乗った男の姿を目にした最後の夜だった。

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