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 悲しそうな瞳で僕を見つめる人がいる。  誰?  切れ長の瞳に、形のいい眉、堀がありほどよい高さの鼻、厚みのある唇。とても整った顔立ちの男だ。  知っている人のような気がした。 「よくがんばったよ」  褒められる資格なんかないのに。 「鈴也」  自分を呼ぶこの声を、どこかで聞いたことがあった。温かくふわふわとする感覚で心の中が何かで満たされる。気付いたら眠っていた。久しぶりに夢も見ずにゆっくり眠れた気がした。  はっと目が覚めた時、ここがどこだか一瞬わからなかった。  見たことのある部屋だと気付き、つい声をあげた。 「託?」  反応はなかったが、やはり託の家のようだ。体を起こすと、見覚えのあるタンスが見えた。 「起きたの?」  託が近付いてきて焦った。プレイ中に意識を失ったのだろうか。  空が明けたばかりで薄暗い。電気はついていなかった。仕事に行かないとと考え、そういえば今日が休みなことに気付き、ほっとする。 「ごめん。帰る」  言いながら、この口の利き方じゃ怒られると思い、言い直した。 「じゃなくて、ごめんなさい」  託は怒っているのでもなく、困った顔で僕を見た。 「鈴也」 「た、託様」 「もういいから。そんな呼び方しなくて」 「え、えーと」  託の様子がおかしかった。何か気に障ることを言っただろうか。いや、意識を失ってしまったせいだろうか。 「ごめんなさい」 「謝らなくていい」 「ごめ。じゃなくて」  何か気の利いたことを言わないとと思った。 「いい子」  頭を撫でられた。 「た、託?」  そんなこと今までされたことなくてびっくりした。

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