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8-3
こんな時はセーフワードしかない。
でも、託の顔を見ると、とたん言えなくなった。
「鈴也!」
鞭で背中をたたかれた。
「べ、別のにして」
痛い方がましだと思った。
「そういう時はどうするの?」
もしかして託はセーフワードを待っているのだろうか。だから昨日から僕にできないことをさせているのか。
それでも、どうしても口にすることができなかった。
「もういい」
また言われてしまった。ちゃんとしたいのに。
「ごめんなさ」
「何で言えないのにその言葉にしたの?」
言葉につまった。自分でもわからなかった。そうじゃなきゃいけない気がした。でも上手く説明できなくて、涙だけが溢れた。
「嫌なら答えなくていいから」
託は悲しそうな顔をした。
「ま、待って」
託の腕を掴んでから気付いた。自分のあられもない格好に。全裸で、自分のはすっかり萎えてしまっている。
急に恥ずかしくなって、慌てて下半身を隠した。
「服着たら?」
「う、うん」
下着だけ身につけたところで、託はため息をついた。そんな顔してほしくない。
「もっと怒ってよ」
言ってしまった。
「僕、何もできなかったのに」
「鈴也」
言葉が止まらなかった。
「託、本当は僕とプレイしたくないんでしょ?」
託は困った顔をするが、続けた。
「弱いから。簡単にドロップするから」
言っちゃいけないのに言ってしまった。
「鈴也」
託は何か言いかけて、僕を穴が開くほどに見つめた。
「これ、どうしたの?」
「え?」
膝の裏を見られて慌てた。プレイに夢中ですっかり忘れてた。
「あっ、その」
やばい。本気で捨てられる。
「ひっかいただけ」
「鈴也」
「ごめんなさい」
託は怒ってはいなかった。
「何が不満なの?」
不満?
「言ってくれなきゃわかんない」
託は怒っているというより悲しそうな顔をした。
「それとももうやめる?」
「やだ。そんなの嫌だ」
こんなのただ駄々をこねてるだけだ。
「やめないで。お願い」
泣いてすがったって仕方ないのに。これ以上言葉が出てこなかった。
「じゃあどうして自分を傷つけるの?」
僕が戸惑っていると、託はグレアを浴びせながらコマンドを告げた。
「言え」
命令されたら逆らえない。言いたくないのに自分の口から勝手にこぼれた。
「だって、託遠慮してるじゃん。僕が何やっても褒めるし、失敗しても怒ってくれない。そんなの意味ない。ドロップしたから、僕なんか何もできないって思ってるんだ」
言ってしまった。
「鈴也」
「ごめんな」
「謝らないで」
途中で言葉を止められた。
「謝るのは俺の方だよ」
託は何を言ってるんだろう。
「鈴也の言うとおりだよ。ドロップされるのが怖くて」
「託?」
「ごめん」
謝らないでほしい。
「僕の方が悪いから。何もできないし、それに」
セーフワードも言えない。
「セーフワードなんて何でもよかったのに、勝手に口にしてた。くつまむしって」
「鈴也……」
「言っても怒らない?」
「怒るわけないでしょ」
それがルールだから。当たり前のことなのに。僕だって託のことを信じ切れていなかった。
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