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10月になり、2歳年下の男性が新しく僕の部署に移動してきた。その男、鮫島晴喜は、一目見てDomだと気付いた。
僕の後輩として面倒を見るように言われたが、あまり乗り気になれなかった。僕を見下しているような嫌な感じがしたのだ。自分がSubだと気付かれないようになるべく目を合わせないようにした。
「内田さん」
鮫島は年下のくせに遠慮を知らなかった。
「俺資料の作成で忙しいんですよ」
目をそらしても、すぐに捕らえられてしまった。
「コピーしといてもらえませんか?」
口調は丁寧だが、先輩に頼むようなことじゃない。
僕以外にそんな態度はしないので、もしかしたらとっくにSubだと気付かれているのかもしれない。
「いいけど」
と答えるしかなかった。
鮫島が現れてから仕事がやりにくくなった。
雑用が増え、帰りも遅くなる。
託の家に行ける日が少なくなった。
託には後輩ができたから教育のため忙しくなったとは伝えていた。
それでも金曜日だけは行きたかったのだけど、鮫島の歓迎会でだいぶ帰りが遅くなってしまった。
今から行ったら迷惑だろうかととぼとぼ駅まで歩いていると、後ろから誰かが追いかけてきた。
「内田さん」
鮫島だった。
「この後予定あります?」
僕は託の家に行くかどうか迷っていた。託には金曜日には行けると言ったのだけど、だいぶ時間が遅くなってしまったから。
「ないけど」
「じゃあちょっと付き合ってくれませんか?」
口調は普通でも有無を言わさぬ感じだった。
鮫島からグレアを感じて、僕は思わず怯んだ。
「やっぱり内田さんSubなんですね」
これ以上ごまかしきれないと思った。
「やっぱ今日は予定が」
嫌な予感がした。やっぱり逃げよう。
「ないって言ったじゃないですか」
目が怖くてそらすことができなかった。
「プレイしてくれません?」
嫌なのに、逆らえない。鮫島の目からグレアが注がれていた。
「ニール」
突然コマンドを言われた。
英語でおすわりと同じ意味の言葉だ。かっこつけてるのか、たまに英語で命令するDomもいた。託に再会する前にプレイしたDomにもいた。
従いたくないのに、体が自分の意に反して動くのを止められない。
しゃがみ込んだところに、僕のスマホが鳴った。
多分託からだ。でも、この態勢で出ることはできない。そのおかげでおすわりはぎりぎりしないですんだけど。
「電話出ないと」
「聞き分けのないSubだな」
鮫島は僕の頭を掴んでもう一度言った。
「ニール」
おすわりの姿勢になるのを止めることはできなかった。
そのまま鮫島に引っ張られ、ホテルの一室に連れて行かれた。
僕も見たことがある、有名なビジネスホテルだった。値段が高くて入ったことはない。
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