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 会社に行く足取りが重かった。慣れた満員電車もきつく感じる。  吐き気がするのを捨て置いて、体を引きずるように会社に行った。  会社に入ってすぐ上司に呼び出された。 「鮫島君が君の下につきたくないと言ってきたんだが、何か心当たりはあるかね」  僕は答えに窮した。託にいいようにされたから、僕に八つ当たりしているのかもしれない。 「わかりません」  そう言うしかなかった。 「そんなことじゃ困るんだよね」  どうしようと思った。 「君のせいで鮫島君がやめたら責任を取ってもらうよ」  僕は何もしていないのに、何故こんな目にあわなきゃいけないのだろう。Subだからだろうか。  鮫島に会いたくなかった。  一度も接触してこなかったのにほっとしたのもつかの間、昼休憩の時に資料室に引っ張られた。 「あんた邪魔なんだよ」  強い目で睨まれた。 「あんたみたいな大した学歴もないSubなんかより、高学歴で仕事もできる俺の方が使える。やめるのはあんたの方」  何も言い返せない。グレアを当てられたわけでもないのに。 「でも、あんたさえ良けりゃ選ばせてあげますよ」  鮫島は口調を変えても少しも笑っていなかった。 「あの男をやめて俺に従えば、上司に取り繕ってあげてもいい」  何を言ってるのかわからなかった。 「パートナーでもない奴のために人生棒に振るのか考えてみてくださいね」  鮫島は嫌な笑いをして去っていった。  託と会うのをやめて鮫島に従えと言ってるのか。  そんなのあり得ない。たとえ託がもうプレイしてくれなくても、鮫島とプレイなんか2度としたくなかった。  でも、そうしないと首になってしまう。上司にも釘を刺された。  家賃も払えなくて路頭に迷うだろう。  やっぱりそんなのできるわけない。明日から職探しかと思ってため息をついた。  昼休憩が終わる前にスマホが鳴った。託からの電話だ。  心配してかけてくれたようで、戸惑った。うれしいけど、今の状況を話したら、託が会社に乗り込みかねない。託を巻き込むわけにはいかなかった。  電話には出ずに、『大丈夫』とひとことメールで返すにとどめた。

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