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 帰ろうとしたら、託に止められた。 「今日は泊まってきな」  僕は迷った。 「明日俺が会社ついてく」 「い、いいよ」 「あいつ多分懲りてないよ」  そんなのわかってたけど、託にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。 「仕事やめるから」 「何で簡単にそんなこと決めるの?」  だって目を付けられてしまったら逆らえるわけないから。 「鈴也の会社うちとも取引あるし、うちの方が大きいから、交渉できるって」 「交渉?」  そんなこと思いつきもしなかった。 「あんな男に鈴也がいいようにされるなんて我慢できない」 「でも」  託の立場だって悪くなるんじゃないかと思った。 「何でいつもそうなの? 鈴也のことなんだから、もっと怒ったら?」 「託にはわかんないよ。支配される側の気持ちなんて。Subになったことないんだから」  言ってしまった。こんな八つ当たりみたいなこと言いたくなかったのに。 「鈴也?」 「ご、ごめん」  こんなこと言うつもりじゃなかったのに。 「確かにそうだね」 「た、託」  怒られると思った。 「だから俺をいじめてたの?」 「え、あ」  託の目をそらすことができない。 「支配される側の気持ちをわからせようとした?」 「違う」  ただ怖かった。何も抵抗できずに支配されてしまうと思うと怖かったのだ。 「ごめん。ごめんなさい」 「謝ってほしいわけじゃない」  射貫くような目で見つめられた。再会した時みたいだった。 「Subのことちゃんと理解したいから」 「教えて」  託はそのつもりなかったんだろうけど、少しグレアがもれていた。 「支配される側だなんて認めたくなくて、託にだけは支配されたくなかった」  口から勝手に漏れる言葉に驚いた。言葉が止まらない。どうしよう。 「逆に託を支配したかった。僕は託が」 「黙って」  託の命令に僕の言葉が止まった。  僕、今何を言おうとしてた? 「鈴也、ごめん」  託が謝り、我に返った。 「言わせる気だったわけじゃないんだ」  黙れと言われたから何も言えない。 「いい子」  頭を撫でられた。 「楽にしていいよ。もうコマンドは終わり」  ふわっと力が抜けた。 「託?」 「ただ知りたかったんだ。鈴也が何を考えてたか。でも、無理矢理言わせるもんじゃないね。ごめん」  謝る必要なんかないのに。  本当は言ってしまいたかった。命令で言わせられたら言い訳できるから。  僕は自分の卑怯な考えに愕然とした。 「とにかく今日は泊まってきな。もうだいぶ遅いし」  そういえば、託の家に泊まるかどうかって話から発展したのだと思い出した。 「うん」  泊まることに抵抗はない。ただ、会社に着いてきてもらうなんて子供みたいだと思った。社会人3年目で、とっくに自立した大人なのに。

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