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お腹が鳴って、夕飯を食べていなかったことに気付いた。会社の後そのまま託の家に来たから。
「夕飯のこと忘れてた。ピザでもとる?」
「ピザ?」
「他に食べたいものがあるなら」
「ピザがいい!」
「鈴也、うれしそうだね。そんなにピザ好き?」
聞かれて、はしゃいだ自分が恥ずかしくなった。
「そうじゃなくて、一人だとわざわざ取らないじゃん。実家で昔食べたきりだし」
つい言い訳がましく言ってしまう。
「じゃあ頼もうか。どれにするか選んで」
こんな状況なのに何故か楽しくなってきた。託とこんな風に過ごすのもいいなと思った。
一緒の布団で寝るのには、まだ慣れないけど。
「託……」
仮じゃなくてパートナーになりたいなんて言ったらやっぱり駄目かな。
無職になろうが、転職しようが、どうでも良かった。託と一緒にいられるなら何だっていい。
「鈴也、おやすみ」
夢の中で託の声を聞いていた。
次の日、いいって言ってるのに託は会社についてきた。
僕の会社は中規模で、従業員もさほど多くない。託が会社に入っただけでやけに目立っていた。隣で僕は所在なげにするしかなかった。
鮫島が僕たちに気付き、託の方を睨んできたが、託は意に介していなかった。
託の会社の名前を出すと、事務員はペコペコして社長に通したから、僕は驚いたのだ。託の会社ってそんなにすごいんだ。
託は僕をないがしろにするようなことをしたら、取引を打ち切るとかなんとか言っていた。本当に託にそんな権限があるのだろうか。
やっぱり昔と何もかも違う託に驚きを隠せなかった。話し方もきびきびしていてまるで僕とは違う。そんな託を従えようとしていたなんて僕はなんて愚かだったのだろう。
託のSubでいられるのがうれしいとまで思ってしまった。といってもまだパートナー契約もしていないのだけど。
そのことを考えるとつらくなる。きっと託は僕みたいな使えないSubなんかと契約したくないだろうから。託の会社にだって託のパートナーにふさわしい人はいるんじゃないか。
どんどん後ろ向きな考えに支配されそうになってくる。
「鈴也」
託に呼ばれて我に返った。
「話はついたから」
「すまんね。内田君。鮫島君にはよく言っておくから」
「はあ」
急にそんなこと言われてもと僕は思った。
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