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社長室を出て託は言った。
「これで安心して仕事できるでしょ」
託はこともなげに言ったけど、僕は戸惑った。
「託、ごめん。いつも」
「こういう時は謝るんじゃなくて?」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
「そうじゃなくて、託」
「何?」
僕なんかのためにどうしてそんな良くしてくれるの?
「Subとして役に立ってる?」
「大丈夫」
託は頭を撫でてくれた。
「また夜にね」
託はわざわざ僕の会社まで来てくれたんだと思い出し、僕は慌てて会社の入口まで送った。
「そんな顔しないで」
名残惜しいような顔をしてたんだろうか。
「鈴也は優秀だよ」
「嘘」
「自分で気付いてないだけ。自信持って」
自信。そんなの全くないのに。
「鈴也は何も悪くないから、堂々としてればいいんだよ」
「うん」
「そもそもSubを見下してるDomなんて、大成しないから」
「え?」
「鈴也が遠慮しなければ、鮫島なんかよりずっとできるようになるよ。俺が保証する」
「でも」
「俺の言うこと信じられない?」
「信じられる」
僕は託のSubでいたいから。託の言葉は信じる。
「じゃあ、またね」
託は笑った。僕は託の期待に応えたいと思った。
鮫島を気にするのはやめて、バリバリ働いた。
僕はまだまだ全然だけど、託の隣で恥ずかしくない自分になりたい。他のDomにおびえることなく過ごしたい。
託がいてくれるから、僕はがんばれる。
パートナーになれるその日までがんばろうと思った。
仕事の後託の家で今日の報告をして、軽くプレイした。
今日は鮫島も何もちょっかいを出してこなかった。僕はもう鮫島なんか怖くなかった。
託には何かあったら絶対に言うように言われたけど。自分で切り抜けられるようになりたいと思った。
まもなく鮫島は部署を移って関わることもなくなったから、正直ほっとした。
そんなこんなで11月になっていた。年末も近付いている。
託とは今まで通り普通にプレイしているけれど、パートナーの話はもう一度言い出せずにいた。
仮のパートナーなんてなりたくなかったから、自分からその話は振りたくなかった。
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