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第20話

「んっ、はぁ」 短く息を吐いて、堂嶋は体をくねらせた。いつか鹿野目が一緒に住んでいたら毎晩ヤリ倒すのにと零していたことを、堂嶋は折に触れて思い出すことがある。一緒に住んでいても堂嶋も鹿野目も仕事で多忙だったため、帰宅が遅くなることが多く、毎日セックスできるわけではないことには早々に気が付いた。鹿野目は時々火のついた目で堂嶋のことを見ることがあったが、それは明日の予定といつも相談されることになった。あれだけ強引だった鹿野目は、弱気に目を伏せていることが多くて、堂嶋が首を振ればそれ以上のことを無理強いすることはなかった。穏やかで少し不思議な鹿野目との生活の中で、時々露骨に鹿野目が欲情している目をしていることを見つけるたびに、鹿野目はただの部下でも同居人でもないことを堂嶋は悟る。では一体何だったのか、何だと思っていたのだろうか。カレシと形容された時に感じた違和感は一体何だったのだろうか。 「か、のくん、もう、やめっ・・・」 「嫌ですか、良さそうですけど」 涼しい顔をして鹿野目が呟く。堂嶋はそれに眉間に皺を刻んだ顔を向けて、せめても抵抗しているふりをした。寝ころんでいる鹿野目の上に乗ったままの堂嶋の後ろ孔に指を突っ込んで、まるで見えているのかと錯覚するほど、鹿野目は器用に指を動かして堂嶋の好きなところを弄った。こういうことも多分したことがあるのだろうと、その涼しい顔を見ながら思う。それが一体どこの誰なのか追及はしないでおくが。 「じゃ、なくて、俺もう、もたな・・・―――」 「悟さんは我慢なんてしなくていいのに」 「いいから、もう、抜いて・・・」 鹿野目は少し考えるような顔をして、それからゆっくり堂嶋の孔から指を抜いた。ローションが僅かに零れ出るような気配がした。そのまま堂嶋は体を起こす。大して触ってもいないのに、堂嶋の性器は既に勃ち上がって先走りを零していた。それが鹿野目の腹の上にもこびり付いている。 「もう、挿れ、る・・・?」 「悟さん大丈夫ですか」 「だいじょぶ、ごめんでも、挿れ、たらイっちゃうかも・・・」 情けなくて眉尻を下げた顔でへらっと笑うと、鹿野目は何か言いたそうに口を動かしたが、結局そこから言葉が生成されることはなかった。それを見ながら堂嶋は、ぼんやりキスがしたいなと思った。その時頭の中に一瞬、亜子が『頭が可笑しい連中』と言って笑っている顔が過ぎる。それを振り払うみたいに堂嶋は自分で孔を広げて、入口に勃ち上がった鹿野目の性器を宛がった。鹿野目のモノもほとんど堂嶋は触っていないのだが、既に勃ち上がっていて、それが若さなのか他の何かなのか堂嶋には分からない。ちらりと鹿野目を見るとそこで今最中だとは思えないほど神妙な顔をしていた。 「悟さん、無理しなくていいですよ」 「いいの、君は、寝てて」 腰をそのまま落とすと、圧迫感に呼吸が出来なくなるかと思った。 「あっ、はぁっ、う」 何度セックスをしてもこの瞬間はあんまり慣れないと思いながら、薄目を開けて鹿野目を見ると、やっぱりそこで神妙な顔をしているのが可笑しかった。 「あっんん、ん、はっ・・・はは」 「悟さん、全部、入りましたよ」 「・・・う、ん」 鹿野目の手が堂嶋の左の膝をいたわるように撫でて、また声が出るかと思った。何でもないそんなことが、快楽に繋がっているのが不思議だった。 「か、のくん、動くの、待って・・・」 「はい、俺、結構、このままで、いいかも」 「・・・な、にそれ」 唇の端で笑うと振動が下腹部に伝わって、びりびりと足の指が痺れた。 「悟さんの、かわいいとこ、全部、見えてる」 「・・・きみは、ほんと、に」 溜め息を吐きたいが、そんな余裕がなく吐けない。鹿野目がそのままでいいと言いはしたが、いつまでもこのまま乗っているわけにはいかない。堂嶋はゆっくり息を吐いて、ぐっと体を持ち上げた。不安定に体が揺れる。そしてそのまままた腰を落とした。 「っあ、ん」 「・・・っ」 無表情だった鹿野目の眉間に皺が寄る。それを見ながら堂嶋はもう一度体を浮かす。 「ん、か、のくんっ、きもち、いい?」 「は、い」 「はは・・・っあ、ん。俺、これ苦手、か、も・・・っ」 鹿野目が律儀に返事をしたのが面白かった。一層深く自分で鹿野目のモノを飲み込みながら、堂嶋は唇の端で笑った。また持ち上げようとする体を、鹿野目が足を掴んで止めた。 「しんどいなら、代わり、ます」 「・・・や、そう、じゃなくて。なんか、ふわふわする、し、掴まる、とこが、ないから・・・」 堂嶋がまたへらっと笑うのに、耐えきれなくなったみたいで、鹿野目は上半身を起こした。そしてそのままぎゅっと正面から抱かれる。急に動かれて結合部分がまた深さを変えた。 「う、あっ」 「さとり、さん」 「あっ、だ、だめ・・・」 耳元で名前を呼ばれて、堂嶋は気が抜けたのかそのまま果ててしまった。何だか急に体の力が抜けて、鹿野目の鎖骨あたりに額をつけたまま、じっとしていた。荒い自分の呼吸が自棄に耳の傍で聞こえて、熱い体はまだ鹿野目を飲み込んでいるせいなのか、冷める気配が全然ない。 「かの、くん、急に動いたら・・・だめだよ・・・」 「すいません」 全くそうは思っていない声色で鹿野目は謝り、堂嶋の髪の毛をそっと梳いて、左の頬にキスをした。余りにも優しい仕草に何故だか堂嶋は目頭が熱くなった。すっと視線を上げて鹿野目を見ると、鹿野目は変わらずに火のついた目をしている。そんな欲情むき出しの瞳で一体誰のことを見ているのか、堂嶋が僅かに口角を上げると、鹿野目は黙ったまま今度は唇にキスをした。合わさってすぐに離れて、また角度を変えて合わさる。鹿野目の首に腕を回して、夢中でキスをしていると、鹿野目を咥えたままの後ろ孔がまたぎちぎちと音を立てた。

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