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第21話

「んっ・・・」 抱き締めた体は温かくて、鹿野目らしくないなと思ったけれど、頭の中まで冷え切った堂嶋には丁度良かった。口を開けてもあんまり口内を触らない鹿野目の舌は、どこか弱気に目を伏せている鹿野目そのもののようだと堂嶋は思っていたしその時はそれを何故か強く思い出していた。そういうことひとつひとつを例えば愛しいと思うことは、男女の愛と何が違うのだろう。濡れた唇を離して、鹿野目のことを熱っぽく見上げる。そうしてじっと動かないでいると、中にまだいる鹿野目のモノの異物感をより感じた。だからいつまで経ってもひとつになれなくて、分かり合えないでいるのだろうか。 「・・・悟さん、からだ」 「ん・・・?」 「しんどいですか、抜いたほうが良いですか」 堂嶋の鎖骨を舐めるように鹿野目の舌が動いてそこで止まる。ちゃんと目を見て話が出来ないのは、怖いからだ。考えながら堂嶋は俯いた鹿野目の後頭部を撫でた。鹿野目が怯えているのは一体何なのだろう。堂嶋の答えだろうか、それとも他の何かだろうか。 「かのくん、はどうしたいの」 「俺はもうちょっと悟さんとくっついていたい」 不意に鹿野目が鎖骨に歯を立てて、甘い痺れが堂嶋の体を走った。そういうことは割とはっきり言うのだなと思いながら、鹿野目の後頭部をぽんぽんと叩いた。 「じゃあ、このままで、いいよ」 「・・・さとりさん」 「俺、さっきのよりこのほうが、すき、だな。くっついていると、安心するから」 何を不安に思うことがあるのだろう、言いながら堂嶋は考えた。もしかしたらその言葉は自分ではなくて鹿野目のものだったかもしれない。 「・・・うごく・・・?」 「いいですか」 「いいよ、ごめんね、俺、先にひとりで」 「いえ、さとりさん、すごくかわいかったです」 かわいい、頭の中で一度復唱して苦笑いをする。鹿野目は真面目な顔でそう言っているので、別にからかわれているわけではないのは分かっているが、どう考えてもそれは自分の形容詞ではないと思う。するとそう思っているのが鹿野目に分かったのか、鹿野目は鎖骨から唇を離して、堂嶋の頬を指でついと撫でた。やっぱりそれは随分と優しい指先だった。 「さとりさんはいつもすごく、かわいいです」 「・・・まぁ、君は変なフィルター持ってるからなぁ・・・」 堂嶋の頭の中で綺麗な赤い唇をした亜子が神様みたいなと呟いて笑う。曖昧に笑うと鹿野目は、少しだけ不服そうな顔をした。そして堂嶋の足の下に手をやって堂嶋の腰を浮かせると、そのまままた深く突き込む。それだけで堂嶋の頭の中の亜子が消し飛んだ。 「う、あっ」 「・・・声、かわいいです、よ」 先刻通り過ぎたばかりの快楽の波が戻ってきて、堂嶋はやや強引にそれに飲み込まれる。後ろ孔は長い間、鹿野目を飲み込んでいたくせに、たった今それに気付いたみたいな鈍感さで、堂嶋に急速にSOSを発信してくる。鹿野目の上で不安定に揺れる体を、鹿野目の体に掴まることで縫い止めて、何とか倒れないでいられる。さっきよりこの体位のほうがずっといい、鹿野目が如何思っているか分からないが。 「ん、あっ、あ」 「ほん、と、だ、さとり、さん」 「あ、やっ、んっ」 「さっきより、良さそう」 深いところに差し込まれたまま、緩く揺さぶられてまた堂嶋は喉を枯らす。時折、鹿野目が開かせた太ももの内側を指でなぞるようにするのでさえ、良く感じて、さっき達したばかりとは思えなかった。自分はこのままどうなるのだろう、ふと堂嶋は考える。 「か、の、くん」 「なん、ですか」 名前を呼ぶと動くのをやめて、鹿野目が律儀に返事をする。その眉間に皺が寄っていて、何だか酷くそれに心臓を掴まれたような気がした。 「や、やだ、こわい」 「・・・大丈夫、さとりさん」 「や、や、あっん、んっ」 もう止めようかとか抜こうかとか、そういうことを鹿野目が言わなくて堂嶋は少し安心した。その為に怖いと言ったのかもしれないし、本当にこのままどうにかなるのが怖かったのかもしれない。どちらでも構わなかった。今更どちらでも同じだと思ったし、もしかしたらどちらも真実だったかもしれない。鹿野目の首に回した腕に力を込めて、堂嶋は一層鹿野目と密着しようと試みた。中途半端に頭をもたげた性器が、先程精を放った鹿野目の腹に当たって、それもまた良かった。 「か、の、くん・・・っあ、ん」 「・・・っ」 「あっ、んん、や、もう・・・っ」 「さとり、さん」 名前を呼ぶとちゃんと名前が返って来るみたいなことが、不安定に揺れる体の上で何度も堂嶋を安心させた。達する前に必ず無口になる鹿野目の口を開かせようと、そして堂嶋は躍起になる。もっともっと名前を呼んで、鹿野目の低くて一定な音で安心させてほしかった。こんな掴むところが見当たらない夜は特に。ぴんと突っ張った足の指が、時々けいれんを起こすみたいに震える。怖いと口走ってしまうほど気持ちのいいことを、鹿野目は分かっているのだろうかと、堂嶋は快楽がまだ浸食してない頭の隅で考えた。 (俺は鹿野くんの側には長くはいられないのに) (こんなことに何の意味があるのか分からない) 鹿野目の肩に歯を立てて、やって来る快楽の波に耐える。耐えながらどこか冷静でいる自分もいて、不思議だった。こんなに傍にいるのに、こんなにくっついているのに、それでも分かり合えないことがあることが不思議だった。不思議で、悲しかった。 「かの、くんっ・・・―――」 名前を呼んで、もっともっと側に来て。

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