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第17話 イライラ

 部屋に鍵をつけて欲しい。  そう頼んだとしても父さんと母さんは簡単には了承してくれないだろう。  プライバシーの尊重をここぞとばかりに主張しても、父さんはどういう反応を示すかイマイチ分からないけど、母さんは目を吊り上げて、「何かやましいことでもあるの?」と切りこんで来るに決まってる。  そんなわけで律は相変わらず好きな時に僕の部屋に入って来る。  自慰の仕方を教えてやると律は言うけれど、はっきり言って僕が自慰をすることは最近ではもう全くないと言ってよかった。  だって、律が頻繁にやって来て、僕に触れて強引にイカされるから。 「はあ……」  溜息がとまらない。  僕は机に問題集を広げながらも、隣が気になってならなかった。  今夜から明日にかけて父さんと母さんは少し遅めの新婚旅行へと出かけて行った。  だから二日間僕と律は二人きり……のはずだったんだけど、そうはならなかった。  このときとばかりに律が女の子を連れ込んだところをついさっき見てしまったからだ。  多分隣の部屋では、そういう行為が行われているのだろう。  なぜか僕は少し苛つきを感じていた。  律は僕に触るように女の子に触り、感じさせ、そして……あああ、僕はいったい何を考えてるんだろ? そんなことよりも勉強しなきゃ。数学の先生は出席番号順に問題を解かせるから明日は絶対に僕が当てられるんだから。  訳の分からないイライラを封じ込め、気を取り直して問題集に向かうも、最初の問題で早くもつまずいてしまう。  数学の問題で、公式を使って解くのだが、その解き方がよく分からない。  そして最初の問題でつまずくと、二問目、三問目も同じ公式を使うので解けない。 「うーん。分からない……」  律なら解けるんだろうけど。  僕は律の部屋がある方の壁を見つめ、また溜息をついた。  馬鹿だな、律に聞けるわけないのに。だって今、律の部屋には……。  僕は思い切り頭を振って雑念を振り払おうとした。  そして再び問題に取り掛かる。だがやはり解けないものは解けない。  封じ込めたイライラが爆発して、シャーペンを投げ出したとき、隣のドアが開く音が聞こえた。続いて女の子の声。 「じゃ、律、あたし帰るね」  それから律の声。 「ああ。サンキュ。助かったよ」  階段を降りて行く二つの足音がして、やがて玄関のドアが開閉される音。  そしてまた階段を上がって来る今度は一つの足音、隣の部屋のドアが開かれ閉まる音。  静寂の中に混じる微かな音楽の音。  女の子、帰った? じゃ今は律、一人?  でもダメだ。勉強を聞きに行ったところで教えてくれるとは限らない。  逆に何されるか分かんないし……。  あきらめてみたび問題に取り掛かるも、考えれば考えるほど分からなくなって来て、気づけば僕は立ち上がり、部屋のノブに手をかけていた。

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