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第31話 律の誕生日当日
残りの春休みは瞬く間に過ぎ去り、律の誕生日当日。
僕は始業式が終わると、真っ直ぐ自宅へと帰った。
「ただいま、母さん」
鍵を開け、キッチンへ顔を出すと、母さんが少し驚いたような顔をする。
「あら、陽くん、お帰りなさい。随分早かったのね」
「うん……まあ……」
「そんなに急いで帰って来ても、陽くんの誕生日は明日だからプレゼントが貰えるのも明日よ」
「そんなこと分かってるよ。…………ところで、律は?」
「まだ帰って来てないわよ。お誕生日だし、お友達とどこかへ寄って来るのもしれないわね」
……そうかも。
律はたくさんの友達や女の子たちにお祝いをしてもらっているかもしれないし、もしかしたら特別な誰かと二人きりでお祝いをしているかもしれないんだ。
僕が肩を落としていると、玄関で扉が開く音がした。
「ただいま」
そして、律の声。
廊下を歩いて来る音が聞こえ、やがてキッチンへと続く扉が開かれる。
「あれ、陽馬、もう帰ってたのか? 早いな。……何?」
僕と目が合った律が訊ねる。
「え?」
「そんなに驚いた顔しちゃって」
「べ、別に」
僕が驚いていたのは、律が早く帰って来たからってこともあるけど、彼が朝出て行った姿のままだったからだ……てっきり女の子からのプレゼントの山を抱えて帰って来るかと思ってたのに。
ぺたんこの鞄にもプレゼントらしきものはなさそうだし、新しく身に着けているアクセサリー類もない。
「お帰りなさい、律くん。お昼の用意するから手を洗って来て。ほら、陽くんもぽーっと突っ立ってないで手を洗って来て」
僕と律は母さんに追い立てられるようにして洗面所へと向かった。
順番に手を洗ってから、僕は勇気を出して律に聞いてみた。
「律、女の子からのプレゼントは?」
もしかしたらあまりに多すぎて持って帰って来れずにコインロッカーにでも預けて来たのかもしれない。
僕は本気でそう思ったのだ。
「ああ、プレゼントは受け取らないことにしてるんだ。だってお返しが大変だし」
モテる男ならではの返答だったが、僕の心は浮き立った。
……ということは少なくとも今現在、律には特別な女性はいないってこと?
だってもしいるなら、その人からのプレゼントだけは受け取るはずだから。
僕はもう一度律を盗み見た。
ピアスも増えていないし、ネックレスも指輪もしてない。
あのぺったんこの鞄に隠し持っているのなら別だけど……。流石に鞄の中まで確かめることはできないし。
「陽馬? おまえ、どうしたんだ? さっきからぼんやりとして」
「な、何でもないよ」
僕は逃げるように洗面所をあとにした。
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