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第39話 離れ行く心?

 その夜を境に、律が僕の部屋へ突然入って来ることも、セックスすることもなくなった。 「……飽きられちゃったんだな」 「え? 何か言った? 陽馬」  放課後、僕の隣で歩いていた学が聞いて来る。 「何にもないよ。それより学、今日は彼女とデートなんだろ? 早く行かなきゃ」 「そうだけどさ。この頃ますます陽馬元気がないから、俺気になってさ」 「僕は普通だよ。ほら、早く行きなよ」  僕が追い立てるように笑って見せると、学は心配そうに何度も振り返りながらその場をあとにする。  学の姿が見えなくなると、僕は重い溜息をついた。 「何だか家に帰りたくないな……」  律と顔を合わせるのが今は辛い。  女の子を自宅へ連れて帰って来ることはなくなったから、そういう場面に出くわすことはなくなったとはいえ、まだまだ律の顔を見ることは辛くて。  僕の方だけダラダラと未練がましく律を思っているのが何とも惨めだった。  律から貰ったシャツもいっそ捨ててしまおうかとさえ思ったりもしたが、できなくて、クローゼットの奥に大切に、でもひっそりとしまわれたままだ。  いつも寄り道をするハンバーガーショップは律と女の子のツーショットをよく見てしまう場所なので、行きたくなくて。  ふらふらと駅前の繁華街を彷徨ううちに日はとっぷりと暮れてしまった。  いけない、もうこんな時間だ。母さんが心配してる、帰らなきゃ。  腕時計に視線を落とし、そう思ったとき、 「よー、そこの眼鏡くん」 「……え?」  突然後ろから声が掛かり、僕が振り返ると、そこにはいかにも質が悪そうな大学生くらいの男性二人組が立っていた。 「な、なんですか?」  後ずさりしながら、返事をすると、 「こづかい、持ってねー? ちょっと貸して欲しいんだけど」  顎に短いひげを生やした、二人のうちの一人がニヤニヤしながら言った。  ……カツアゲ……? 「も、持ってません」  震える声で僕が答えるも、今度は残った片割れがグイと距離を狭めて来る。 「眼鏡くん、大人しく財布出せよ」  凄まれて、周りを見渡すも、助けてくれそうな大人はいない。  僕は慌てて踵を返すと、一目散に逃げだした。 「あ、待て。こいつ!」  背後から二人組が追って来る気配がする。  運動はあまり得意じゃないけど、とにかく怖くて僕は逃げに逃げた。  そのおかげでなんとか二人組をまくことはできたが、気づけば見たこともない場所へと来ていた。  ここ、どこ?  人通りはまばらで、卑猥なムードを醸し出す建物が立ち並ぶ。  目の前から中年の男性と若い女性のカップルと思われる二人組が歩いて来て、肩を寄せ合い建物の中へと入って行く。  も、もしかしてラ、ラブホテル?  そんなものが立ち並ぶ通りになんて生まれて初めて足を踏み入れた僕はすっかり怖気づいてしまった。

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