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第43話 律の告白

 僕は慌てて立ち上がり、ティッシュで涙をふくと勉強机に向かう。 「……はい」  母さんがおやつでも持ってきたのだろう。  そう思い、返事を返したが、ドアが開きそこから姿を現したのは律だった。  僕の部屋へ入るとき、律はノックなどしたことがない。  少し驚くのと同時に、それだけ律が僕を遠ざけ始めたのだと思い知らされているようで辛くなる。 「ちょっと話があるんだけど、いいか? 陽馬」  僕に話しかけて来るトーンも今までのような軽いものではなく、どことなく他人行儀な気がした。 「……うん」  緊張しながら僕がうなずくと律は部屋の中へと入って来て、僕のベッドに腰かけた。 「……話って、何?」 「昨夜、一緒にいたやつ、本当にただの友達?」 「学? そうだけど」  どうしてこんなことを聞いて来るんだろう?   律の真意が分からずに戸惑う僕のことを薄茶色の瞳がジッと見つめて来る。 「……なら、いいんだ」  律はフイと視線を逸らすと、小さく吐息を零した。 「律……?」  明らかに様子がおかしい律に、僕が更に戸惑いを深めていると、律は目を伏せしばらくの沈黙のあと、 「……俺、小さい頃はすっげー悪ガキでさ」  何故か急に子供の頃の話を始めた。 「……律?」 「成績も最低でテストの点はいつも一桁か零点ばかりだった」  僕は訳が分からないままにも驚いた。今の律からしたら信じられない話だ。  律は尚も話を続ける。 「そんなだから母さんはいつも先生に呼び出されては注意を受けて謝ってばかりだった。だから俺は母さんの怒った顔とか困った顔しか記憶になくてさ」  律が静かに笑う……とても悲しそうな笑み。  律が今話している『母さん』とは勿論彼の実母のことだろう。 「小学生の中学年になる頃には馬鹿みたいだけど、いっぱしのワル気取りで、近所の素行の悪い中学生グループとつるんでばかりいた。……あの日も俺はそいつらに会いに行こうと出かけて行き、母さんはそんな俺を連れ戻そうとする途中、事故に遭った。だから、母さんが死んだのは俺の所為なんだよ」 「律……」  律の表情が辛そうに歪む。  僕は以前律が寝言で母親を呼び、涙を流していたことを思い出していた。 「……だからね、新しい母さんができるって父さんから聞かされたとき、今度こそ絶対に心配かけたりしないでおこうって、いつも笑顔でいて欲しいって思ったんだ」 「……律……」  部屋の中に沈黙が落ちる。  律はゆっくりと顔を上げるとベッドから立ち上がり、僕の傍に立った。  ふわりと抱きしめられる。

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