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第45話 自己嫌悪

「……陽馬……」 「い、今言ったことはナシ……取り消し」  僕は必死になって告白をなかったことにしようとしたが、土台無理な話で。  戸惑いも露わに律が言う。 「それは陽馬、一時の気の迷いか、勘違いだよ。おまえは可愛い彼女を見つけて、きちんとつき合って、いつか幸せな家庭を築いて。俺みたいないい加減な生き方じゃなくて」  律の言葉に、ああ、やっぱり僕の気持ちは律には受け入れて貰えないんだと今更ながら思い知らされる。 「……もういい、律。出てって」 「陽馬?」 「お願いだから出てって……」  僕は律から視線を逸らし、うつむきながら訴えた。  サラサラと髪が流れて僕の顔を隠してくれるが、眼鏡を伝ってパタパタとフローリングの床に落ちる涙までは隠してくれない。  なんて重い僕。  自分でもやになちゃうくらいに重いし、律がいつか言ってたように面倒くさい。  自己嫌悪が胸をえぐり、涙がとまらなかった。  ずっと顔を上げられずにいる僕の頬に律の手が触れる。  そのまま顔を上げさせられると、律は僕と視線を合わせた。  薄茶色の綺麗な瞳が僕をジッと見つめてきて呟く。 「陽馬……本気で言ってくれてるの? 本当に俺のこと好きって」 「違うっ……あれは嘘だからっ……」  必死に強がり否定しても、泣きながらなんて説得力もあったもんじゃなかった。 「ダメだ……もう我慢できない。陽馬にそんな顔されたら……俺、『いい子』でいられなくなる」  その次の瞬間には強く抱きしめられた。  そして続けて耳元で囁かれた言葉は、 「陽馬……好きだ……」  絶対にありえないはずのものだった。 「本当は誰にも渡したくなんてない。俺のものにしたい」 「ど、同情はやめてよ……!」  余計に惨めになる。  僕は抗い律の腕から逃れようとしたが、律の腕は強く僕の体に絡みつき離れない。 「そんなんじゃない。俺は本気でおまえを」 「嘘ばっかり。そんなこと今まで一言だって言ってくれたことなかったじゃないか」  どれだけ抱き合っても決して『好き』という言葉を律はくれなかったし、それどころかついさっき、『彼女を作れ』と言ったばかりのくせして。  僕の気持ちは律の言動に振り回されもう滅茶苦茶だった。

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