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第54話 放課後のプチ・デート

 放課後、学と別れてから、僕は律との待ち合わせの本屋へと向かった。  本屋は混んでいたけど、律の輝くオーラを纏ったような容姿はとても目立つので一瞬で見つけることができた。  でもここで律の名前を呼んだら、すっごく注目されるので、僕はひっそりと彼の方へと近づくことにした。なのに。 「陽馬!!」  なんと律の方が先に僕を見つけ、名前を呼んで来た。  その瞬間、律のことを盗み見ていていた周りの女性たちの視線がいっせいに僕の方へと注がれる。  ……うう。これって心臓に悪い。  僕が入り口近くで縮こまっていると、律が艶やかな笑みを浮かべながら傍にやって来た。 「どうした? 陽馬、なんだかちょっと顔色悪いけど……大丈夫か?」  輝くような笑みを一転心配色に染めた律がそっと髪に触れて来る。 「大丈夫。なんでもないよ。それより外に出ない?」  とにかく周りの視線から逃れたくてそう言うと、律は薄茶色の瞳をますます翳らせる。 「分かった。ここ暑いもんな……汗かいてる」  そして髪に触れていた手を額から首筋へと移動させる。  僕は背中から貫通してしまいそうなくらい凝視されているのを感じながら(律はそんなものには慣れっこなのだろう全くの自然体だ)本屋の外に出た。  外に出ると、律は自動販売機で冷たい水を買ってきてくれ、僕の額へと当ててくれる。 「あ、冷たくて気持ちいい」 「本当に大丈夫か? 陽馬」 「ん。別に気分が悪かったわけじゃないし。ごめんね、ありがとう」  ただ……あれはなんていうんだろう? 人酔いならぬ視線酔い?? しちゃっただけで。  今も視線は感じるけど、それは律に対してのもので、僕のことは素通りみたいになってるんで平気。 「でもさ、律」 「ん?」 「あんなに人の多い本屋でよく僕のこと見つけられたね」  僕は垢抜けなくて冴えない人間で、律のような華は欠片もない。  だから勿論目立つことなどなく、あれいたの? なんて反応されることも多い。 「そりゃ陽馬、キラキラ輝いていたもん。天使みたいに」  普通そういうのは律のような人に使う形容だと思う。  相変わらず律の僕への評価は無駄に高いというか斜め上を行ってるというか。  僕本人はこんなに冴えないやつなのにね。 「顔色良くなって来たな。このまま真っ直ぐ家へ帰るか? それともどこか寄りたいとこある?」  律の問いかけに、僕は少しだけ考えてから答えた。 「律と一緒に行ってみたいとこがある……」

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