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第57話 僕だけ
深夜。
いつもと同じく律がノックもしないで部屋へ入って来た。
そしてパジャマ姿でベッドに座り目覚まし時計をセットしていた僕を抱きしめる。
律の腕に身を委ねながら、僕はなんとなく聞いてみる。
「律って、どうしていつもノックしないの?」
「嫌?」
「もう慣れたからいいけど……」
逆に今ではノックされたら落ち着かない気持ちになってしまう。
律の心境に何かあったんじゃないかって。……慣れとは凄いものだ。
「……初めて俺が陽馬の部屋、ノックせずに入ったときのこと覚えてる?」
「…………お、覚えてない」
「嘘ばっかり。陽馬、顔真っ赤になってる。あの時のこと思い出してるんだろ?」
図星だった。
そう初めて律がノックもせずに僕の部屋へ飛び込んで来た時、僕はそ、その自慰の真っ最中で。
んでそれをばっちり律に見られてしまって。
それからなぜか律が僕に自慰のやり方を教えるって言って来て……。
あの時は余りの恥ずかしさとびっくりしたのと律のはっちゃけぶりに茫然としたっけ。
今、思い出しても穴があったら入りたい気持ちになってしまう僕に、律はクスクスと笑う。
「あの時の陽馬が超可愛くて。ノックしない癖がついちゃったんだ。またなんか可愛いシーン見れるかなーってさ」
「り、律の悪趣味」
「陽馬が相手だからね。ついちょっといじめたくなっちゃうんだ」
色っぽく笑みを深めながら、律は僕の手から目覚まし時計を取り上げ、ベッドサイドの小テーブルの上に置いた。
それから僕の脇の下に手を入れ僕を立たせると、そのままドアに体を押し付ける。
「り、律……んっ……」
突然の深いキス。
熱い舌が僕の口内に入り込んできて好き放題に蹂躙する。
律のキスはいつもすぐに僕を腰砕けにしてしまう。
本当に律はいったい何人の女の子とキスやそれ以上の行為をしたんだろう?
そんなふうに考えると激しい嫉妬が体の奥深くから湧き出て来る。
糸を引いて唇が離れて行くと、律が甘く囁く。
「陽馬……好きだよ、おまえだけ愛してる……」
真剣な色を浮かべる薄茶色の瞳に見つめられて体の芯がゾクと疼いた。
「……僕だけ?」
「ああ……陽馬だけ」
僕の眼鏡をそっと外すと、律はまぶたにキスをしてくれた。
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