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第60話 デート本番
初めてのデートの日曜日がやって来た。
昨日は土曜日だったので、また夜遅くまでさんざん律に泣かされて、まだ足元がフワフワとおぼつかない。
隣を歩く律はとても楽しそうな顔で浮かれている。
律の幸せそうな表情を見てると(その理由が僕とのデートなのだから尚更)僕まで幸せな気持ちになる。
律が道中三回もスカウトマンから声をかけられた所為で映画館に着いたのは観る予定の映画が始まる五分前だった。
僕たちが慌ただしく予約してあった席に座ったとき、大きなスクリーンはちょうど次回のホラーの予告編をやっていた。
なんのけなしにその予告を見ていると、律が僕の耳元に顔を寄せて来て囁いた。
「陽馬、映画、怖かったら俺に抱きついてもいいよ」
「だ、抱きついたりしないよっ。僕、ホラーには強いんだから」
「そうなの? でも俺は怖いの弱いんだ。だから手、握っててもいい?」
律は僕の手を取り、俗にいう恋人繋ぎをしてきた。
「り、律。誰かに見られたら……」
「誰も見たりしないよ。こんなにガラガラだし、暗いし。それに別に見られたってかまわないじゃん。……あ、ほら映画始まるよ」
スクリーンでは予告編が終わり、本編が上映され始める。
でも僕は映画に集中することができなかった。律と繋いでいる手に全神経が持って行かれて。
不思議だった。
もう数えきれないくらいキスをし、体を重ねてまでいるのに、手を繋ぐのがやたらと恥ずかしくて。
ドキドキしてるのが手から律に伝わってしまいそう。
手に汗をかいてきちゃったけど、律は不快に思ってないだろうか?
そんなことばかり考えてしまい緊張しまくり怖いと評判のホラーもちっとも頭に入って来なかった。
映画が終わり明るくなって席から立ち上がる時、隣で律がポツリと呟いた。
「陽馬と手を繋ぐのなんかすごくドキドキして、映画全然怖くなかったわ」
その言葉に僕は驚いた。
デートなんてきっと数えきれないくらい経験してるだろう律が同じように感じてくれていた?
「り、律もそんなふうに思ってたの?」
「え? もしかして陽馬も同じだったのか?」
「だって、僕はデ、デートなんて初めてだし……。映画の内容、ちっとも覚えてない」
「陽馬、可愛すぎ。今日は一日手繋いでいようか?」
律がそう言い、繋いだ手をブンブンと振った。
僕は慌てて答える。
「心臓が持たないからだめっ」
すると律は僕のことを抱きしめた。
ガラガラとはいえちらほら他のお客もいるというのに。
本当に律とのデートは心臓に悪い……。
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