その週の木曜日。 　学校での昼休みのこと。 　僕がお弁当を食べていると、目の前の席でパンにかぶりつきながらスマホを見ていた親友の学が急に嬉しそうな声を上げた。 「喜べ、陽馬」 「え？」 「今、俺の彼女の深月（みづき）からラインが来てさ。合コンが決まったぞ。明日の放課後、駅前の『シャイン』っていうファミレスで。深月を含む五人の女の子と合コンをするぞ」 「はあ！？」 　僕は突然の学の言葉に驚いた。 「い、いったいどういうことだよ？」 「陽馬、彼女と別れたって言ってただろ？」 　いや。そんなこと一っ言も言ってないけど。 　大体僕には『彼女』なんて生まれてから現在まで勿論いたことなんかない。 　存在もしない『彼女』とどうやったら別れられるというのか。 　完全なる学の記憶違いの思い込みだ。 　僕はそう否定しようとしたが、学は僕を遮ってペラペラと楽しそうに話し続ける。 「だから深月に頼んどいたんだよ。フリーの女の子集めといてって」 　な、なんて余計なことを……。 「やだよ、学。僕、合コンなんか参加しないから」 「まーまー。照れるなって。結構可愛い子そろえてくれたみたいだし。おまえも新しい恋を見つけなきゃ」 「いや、学、僕は……、その……」 　――律って言う恋人がいるから、そんなの無理――。 　流石にそうはっきりと本当のことが言えなくて、口ごもってしまうと、学はそれを肯定と受け取ってしまった。 「よし。じゃあ、男もあと三人、面子そろえなきゃな」 　浮き浮きとそう言うと、学は席から立ち上がった。 　その夜。 　僕は律に勉強を教えてもらっていたのだが、全く頭に入って来ない。 「はあ……」 　さっきから出るのは溜息ばかりだ。 　そんな僕の頭を律が教科書で軽く叩いた。 「こら、陽馬。ちゃんと聞いてるか？」 　そして、僕のノートをのぞき込んで来た。 「なんだよ？　全く進んでないじゃないか。いったいどうしたんだ？」 「な、何でもない」 　律には言えっこない。 　結局、僕は学からの強引な合コンの誘いを断れなかったのだ。 　合コンに参加するなんて言ったら、律は怒るだろうか？ 「何でもないって顔じゃないな。陽馬、学校で何かあったのか？」 　律が心配そうに僕の顔を見て来る。 　好きな人に隠し事をしている苦しさが僕を苛む。 　いっそ正直に言ってしまった方がいいのかな？　　 　僕が迷っていると、机の上に置いてあったスマホにラインが届いた。学からだ。 （明日の合コン、楽しみだな。陽馬の気に入る女の子が来たら、俺もうまく行くように協力するからな） 　うわ、まずい、と僕はスマホを隠そうとしたが時すでに遅し。 　律が僕のスマホを取り上げ、地の底から響くような声を出した。 「……何だよ？　これ。陽馬、合コンってどういうことだよ！？」 「え、えーと、これはね……あの」 「陽馬！」 　鋭い声で名前を呼ばれ、僕は全てを白状した。 　律は僕の話を聞くとこれ以上はないくらい不機嫌になった。 「……どうして、合コンなんかに行くことになるかな。俺がいるっていうのに」 「ごめんなさい……」 　そう、自分でも情けなくなるこの性格。 　どうして、はっきりと断ることができなかったのか……。 　萎れる僕。 　律はしばらく怖い顔で腕を組んでいたがやがてとんでもないことを言いだした。 「分かった、俺もその合コンに参加する」 「え！？」 「合コンをセッティングしたそいつに、そうラインして」 　僕のスマホをトントンと叩くと律は綺麗な薄茶色の瞳に挑戦的な光を浮かべた。