律に興味を示していないのは学の彼女と、僕の隣に座っている――律とは反対側の方の――女の子だけだ。 　何故かその隣の女の子は僕の方を見て淡く微笑んだかと思うと、おもむろに聞いて来た。律が僕の取り皿に入れてくれた唐揚げを指差して。 「ねえ、陽馬くん、だったっけ？　それ美味しい？」 「えっ？　あ、お、美味しいけど……」 　今通っている高校は男子校で、中学のときも男子校で、その上陰キャなもので、僕は女の子とまともに話したのは小学生の低学年以来だった。 　ごく短い会話だったし、可愛い部類の女の子に入るのかもしれないけど、僕の感情は勿論微塵も動かない。 　なのに、律は僕の方を……いや、その女の子の方なのかもしれないが……睨んでいる。すっごい鋭い目で。 　しかしその女の子は鈍感なのか今度は僕の着ているカーディガンをつかんできて言う。　 「あたしも食べたいな。唐揚げの大皿、遠いから。陽馬くん、取ってくれる？」 「……うん」 　律の視線が怖かったけど、その女の子の位置から唐揚げの大皿までは遠いのも確かだ。 　僕は大皿に手を伸ばして、取り箸で唐揚げを取ってあげようとした。 　そのとき横からそれをさらったしなやかで綺麗な手は見慣れた律のそれだった。 「はい、これ」 　律は優しい微笑みを浮かべながら、しっかりとその女の子に視線を向けていて……。 　正直言って僕は隣の席の女の子に嫉妬した。 　同時に律に対しては「どうして？」という思いを強く感じた。 　どうしてこの子のことそんなに優しく見つめるの？ 　どうして、律が唐揚げを取ってあげるの？　と。 　そして律に見つめられた当の女の子はたった今まで律には興味を示していなかったのに、あっという間に律の虜になったようで、頬をピンクに染めポーッと彼を見つめている。 　僕はかなりおもしろくなかった。 　律が僕以外の誰かに優しく微笑みかけることに胸が苦しくなるほどの嫉妬を覚えていた。