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第65話 合コン後の喧嘩
結局、合コンは律が学の彼女以外の全ての女の子の注目を浴びたままお開きの時間になった。
今も女の子に囲まれて連絡先を聞かれまくっている。僕はそんな律を見ていたくなくて、さっさとファミレスの外へ出た。
すると学がやって来た。
「ごめんな、陽馬、まさかこんなことになるなんて……」
「ううん、……楽しかったよ」
勿論これは嘘だけど。
「ほんと佐藤律、恐るべしって感じだな」
学が力なく苦笑する。
僕もそれに答えて笑って見せようとしたがうまく行かなかった。
その後、律は自分に食いついている女の子たちから何とか逃れて来て、僕たちは家路に着いた。
僕と律、肩を並べて歩きながらも、二人の間にはどこか不穏な空気が漂っていた。
チラと律の方を見上げると、彼は凄く不機嫌そうな表情をしていて。
正直律がここまで不機嫌になる理由が分からない。
僕が困惑していると、律が苛々とした口調で呟いた。
「女と仲良くなんかしてんじゃねーよ」
「え?」
「おまえの隣に座っていた女、あいつ、完全に陽馬のこと狙ってただろ? 分からなかったのかよ」
「…………」
「それとも、もしかして嬉しかった?」
本気で言ってるのではないと分かってはいても律のこの言い草にはさすがの僕もキレた。
「……律は勝手だ」
「勝手?」
律の表情がますます険しくなる。
僕は唇を強く噛みしめてから再び言葉を重ねる。
「だって、律なんかあの場にいたほとんどの女の子から狙われてたじゃないか。それに、僕のこと狙ってたとか律が言う女の子だって最後は律のこと見ていたし……っていうかあの子に律、優しく笑いかけてたし、僕がどんな気持ちでいたか、全然分かってくれてない」
「陽馬……」
律の苛立ち一色だった表情に戸惑いの色が浮かぶ。
律の薄茶色の瞳が僕を見つめる。
綺麗な宝石のような瞳。
そこに映すのは僕だけにして欲しいのに。なのに。
「勝手だよ! 律は本当に勝手だ!」
僕はとうとう感情を爆発させ叫ぶと、その場から走り出した。
道行く人が何事かとこちらを見ているが構わずに僕は全速力で走った。
「陽馬! 待てよ!!」
後ろから律の声が追いかけて来る。
今は律と冷静に話す余裕がないので、振り切りたかったけど、律と僕では脚の長さが違う。
あっという間に追いつかれて腕を捕まれる。
「離して!!」
「陽馬、ちょっと落ち着いて」
「離してよっ!!」
律の腕を振り払おうとしたとき、勢い余って律の頬を引っ掻いてしまった。
「……っ……」
痛みの声を発し律の力が弱まった。
僕はその隙をついて逃げ出す。
もう感情が昂って心がいっぱいいっぱいで、律の綺麗な顔に傷をつけてしまったことを謝ることさえせずに。
人波が僕と律の間を分けていく。
遠く離れていく律の僕を呼ぶ声に、気持ちまで離れて行ってしまうような予感がした。
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