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第70話 葛藤

 それから日々は平穏に流れて、律の学校の文化祭の日がやって来た。  律は準備があるからと朝早くから出て行っていた。文化祭は十時から行われるらしい。 「父さん、母さん、それじゃ律の学校の文化祭に行ってきます」  母さんと、日曜日で家にいた父さんに僕はそう言うと出かけようとした。  すると母さんが微笑みながら返して来た。 「良かったわ」 「え?」 「陽くんと律くんが本当の兄弟みたいに仲良くなってくれて。ねえ、お父さん?」  母さんは、今度は父さんの方を向き微笑む。 「ああ。私たちが結婚を決めたとき、一番悩んだのが、律と陽馬くんのことだったからね。二人とも一番難しい年頃だから、どちらかがぐれたらどうしようとか色々お母さんと話し合ったものだ」 「そ、そうなんだ……」 「それがこんなに仲良くなってくれて、父さんも嬉しいよ」 「……………」  僕は正直反応に困った。  僕と律は確かに仲がいい。でもそれは兄弟のような関係ではなくて。  そう、体の関係まである恋人同士として仲がいいのだ。 「? どうしたの? 陽くん。変な顔しちゃって」  僕の顔は多分すごく引きつっていたと思う。 「な、なんでもない。……じゃ、行ってきます」 「行ってらっしゃい」  母さんと父さんは仲良くハモッて、僕を送り出してくれた。  律の学校へ向かう道々、僕は考え込んだ。  以前律は母さんに僕たちの関係がばれても構わないと言っていたことがあった。  きちんと僕たちの関係の真実を言うと。  それは相手が父さんであっても変わらないだろう。  そして僕もまた同じ気持ちだ。  例え女手一つで僕を育ててくれた母さんを悲しませることになっても、新しくできた優しい父さんを怒らせることになっても。  律がいない世界なんて僕にはもう考えられない。  けど、僕たちの関係を微塵も疑っていない(まあ、当たり前のことなんだけど)父さんと母さんを見ていると、心がチクチクと痛む。  男同士なんて簡単に許してもらえるなんて思ってはないけど、それでもやっぱり大切な両親には祝福されたいとか到底無理なことを願ってしまう。 「ふぅ……」  大きな溜息が零れる。  いけない、せっかく律が誘ってくれた文化祭なのに、こんなことばっかり考えていたら。  僕は一度大きな深呼吸をすると気持ちを切り替えた。

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