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第72話 コンテストの憂鬱
「来てくれたんだな。それじゃ見て回ろうか」
「え? で、でも律、今手離せないんじゃ……?」
「あー。大丈夫。だって他にもウエイター役やウエイトレス役いるのに、ずっと俺一人だけでやらされてたんだからな。少しくらい休ませてもらわなきゃ」
……ああ、それはお客がみんな律目当てだから。
もし僕がウエイター役だって、こんな律のファンばっかのところに出て行く勇気はない。
「……というわけで、ちょっと学内見て来るからあとはよろしくー」
律が教室内に声をかけると、彼のクラスメートたちは慌ててとめたけど。
律は構わず僕の肩を抱いてとっとと歩き出す。
律のファンの女の子たちも騒ぐ。
「何こいつ」という視線が痛い中、僕は律に引きずられるようにして、その場をあとにした。
律と一緒に校内を見て回ると、やはり注目の的になった。
擦れ違って振り返るのは女子だけじゃなく、時には男も振り返ってこっそり「あれが、有名な佐藤律?」と耳打ちしたりしてる。
そんな状態は正直愉快じゃなかったけど、律と一緒にお化け屋敷に入ったり、屋台で買ったチョコバナナやベビーカステラを買って歩きながら食べるのはとても楽しかった。
その男子生徒が律を呼びに来たのは、正午過ぎ、僕たちが買った焼きそばを学食のテーブルで食べていたときだった。
「律、一時からコンテストが始まるからそろそろ舞台裏に来ておいてよ」
男子生徒は窓から見えるグラウンドの舞台を指差してそんなことを言った。
見れば舞台の周りにはたくさんの人たちが集まっている。
律は男子生徒の言葉に眉をひそめた。
「……俺、出たくないんだけど。棄権したらだめかな?」
「だめだよ。律は初めて三年連続でミスターG校に選ばれるだろう逸材だよ。ほら、舞台の周りに大勢の人が集まってるだろ。あれみんな律を目当てにしてるんだから、期待に応えなきゃ」
乗り気じゃなさそうな律と、何がなんでも参加させようとする男子生徒の攻防が目の前で繰り広げられる。
こうなって来ると嫌でも律が今置かれている状況が分かる。
さっき階段で擦れ違った女の子たちもこのことを話していたんだ。
「じゃ律、待ってるから、絶対来いよ!」
男子生徒が一方的に話を断ち切り走り去る。
律は大きな溜息をついた。
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