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第73話 コンテストの憂鬱2
「律……」
端整な顔を憂鬱色に染める律に声をかけると、律はこれまた憂鬱そうな声で言う。
「うちの学校さ、文化祭のたびにミスG校とミスターG校選ぶんだよ。そういうの去年や一昨年はそれなりに楽しかったんだけど。今年は楽しくないっていうかめんどくさい」
「……どうして? 律がかっこいいからみんなが選んでくれるんだろ?」
僕は本音を隠して律に微笑みかける。
そう、正直僕も楽しくない。
そりゃ恋人が人気者なのは誇らしいことなのかもしれない。
でも、律があの広い舞台の上に立ち、アイドルのように不特定多数の女の子からキャーキャー言われるのを見るのはやだった。
だって律は芸能人ではなく、僕の、僕だけの恋人なんだから。
本当に僕って嫉妬深かったんだな。
律と恋人同士になるまではこんな感情知らなかったし、自分がこんなに嫉妬深いことも知らなかった。
僕が自嘲気味にそんなことを考えていると、律が綺麗な薄茶色の瞳で見つめて来て、ポツンと言葉を零した。
「俺は陽馬にだけかっこいいって思ってもらいたいし、陽馬だけに見つめて欲しい。不特定多数の称賛なんてまったく要らない」
「……律……」
僕の胸がキュンと音を立てる。
「……陽馬……好きだよ……」
いつも律のいるところには人目があるのだが、このとき学食には奇跡的に誰もいなくて。
律の顔が段々と近づいて来て、そっと僕の唇に律のそれが重ねられた。
ふわりとしたキスはすぐに離れて行き、律は長い指で僕の唇の輪郭を辿りながらフッと微笑み呟いた。
「じゃ行くか。あんまりぐずぐずしてたらまたしつこく呼びに来そうだし」
「そだね」
「……陽馬」
「何?」
「客席で俺のこと見ててくれる?」
「……ん」
嫉妬しちゃいそうだけど、見てるよ。
口下手な僕はその言葉を飲み込んで小さくうなずいた。
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