74 / 137
第74話 コンテストの憂鬱3
グラウンドに組まれた舞台まで近づき、律はそのまま裏に消えていき、僕は人で溢れかえった客席の後ろの方で立っていた。
一時になり、まずはミスG校が発表される。
スタイルもよく、すっごい可愛い子だった。男子たちが微かにざわめき、あちらこちらでスマホをかざして写真を撮る姿が見える。
彼女の喜びの言葉のあと、続いてミスターG校が発表された。
読み上げられた名前は勿論律。
その途端ここはコンサート会場かというくらいの女の子たちの黄色い声が上がり、司会者役の男子生徒が律に三年連続の受賞おめでとうと興奮気味に叫ぶ。
そんな騒がしい中、僕だけは孤独だった。
考えたくないがやはり舞台の上の律とその他大勢のオーディエンスになってしまってる僕では釣り合わない気がしてきて。
ああ……だめだ。僕のマイナス思考がどんどん前に出てきてしまう。
分かってる。律は芸能人なんかじゃない。
例え律にその素質とオーラがあったとしても彼の夢はそこにはないってこと。
律は僕にだけ自分の夢を話してくれたし、僕のことを真剣に思ってくれている。
分かってるけど、落ち込んでしまう気持ちはとめられなかった。
しかし、どんよりと落ち込んでしまっている僕に追い打ちをかけるように司会者役の生徒はマイクに向かって朗々と叫んだ。
「それでは、佐藤律くん、三年連続の栄光を祝して、ミスG校の頬へ熱いキスをどうぞ!」
女の子たちの歓声が悲鳴へと変わる。ブーイングの嵐だ。
それとは逆に一部の男子は冷やかすようにはやし立てる。
舞台の上では嬉しそうに微笑むミスG校の女子生徒が律からのキスを待っている。
僕は……嫉妬の渦の中にいた。
どう考えてもこれはお調子者の司会者の悪ふざけにすぎなくて、律はあの女の子のことは何とも思ってはいないと分かってはいても嫌だった。
(嫌だ、やだ、律が他の誰かにキスするなんて……!)
けれどその気持ちを声にする勇気はなく、舞台に駆け付け阻止する勇気もない。
情けない僕はただうつむいているしかできなかったんだ。
そんな僕の耳に届いたのは、
「そんなことできない」
凛と響く律の声だった。
ともだちにシェアしよう!