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第75話 律の決意の行動
僕が思わず顔を上げると、司会者からマイクを奪った律が舞台の上から真っ直ぐに僕を見ていた。
観客席はかなりの人で溢れかえっていて、その上僕は後ろの方で立っていたというのに律の強い視線は迷いなく僕を捉えている。
律……。
律はいったんその綺麗な薄茶色の瞳を閉じると、ゆっくりともう一度開いた。
そしてみんなが律を見つめる中、律は僕だけを見つめながら言ってくれたんだ。
「俺には今、誰よりも大切な人がいるから。俺がその人以外の誰かに触れたりしたら、きっとその人が悲しむからできない。だって俺だってその人が俺以外の誰かに触れられたら死ぬほど嫌だから」
一瞬の静寂。
そのあと会場は正に蜂の巣を叩いたような騒ぎとなった。
女の子は泣き叫び、男子は呆気に取られている。
マイクを取られた司会者が口をパクパクさせている。
僕は、僕だけを見つめて来る薄茶色の宝石に魅入られていた。
真摯な瞳に、声に、言葉に、気づけば僕は泣いていた。
女の子でもないのに泣く僕に近くにいた人は怪訝そうな表情をしていたけど、僕の涙は止まらない。
滲む視界の中で律が舞台からひらりと飛び降りるのが見えた。
人混みを押しのけて僕の方へとやって来る律。
「ちゃんと見ていてくれた? 陽馬」
すぐ傍にまでやって来た律はにっこりと笑って、涙をそっと拭ってくれる。
「りりりりり律っ」
僕は慌てた。
この流れでここへ来て、こんなふうにされたら、さっきの告白の相手が僕だと勘繰られちゃう!
僕が必死に手振り身振りで舞台に戻るように促しても律は僕の傍を動かなくて。
「いいんだよ、陽馬。これで」
「で、でも……」
「俺のクラスの茶店に行こうぜ、陽馬。チョコレートパフェ奢ってあげる」
律は僕の肩を抱くと、背後で上がる悲痛な悲鳴も突き刺さるような視線もものともせず颯爽と歩き出した。
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