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第76話 自信が持てない僕

 つい数時間前は教室からはみ出すくらいに超満員だった律のクラスの喫茶店は、今は閑古鳥が鳴いていた。  多分みんなコンテストの舞台を見に行ってしまったのだろう。  残っているのはウエイター役と簡単なメニューを作っているコック役の男子生徒たちだけで、女子生徒は一人も残っていない。  その少ない生徒たちも早耳で誰から聞いたのか、律がミスG校へのキスを拒み、大切な人がいる宣言をしたあと僕を連れてここへ来たということを知っているようだった。  ……視線が痛いし、何か噂されてるみたい……。  僕は男子たちがするこそこそ話が気になって仕方ないというのに、律の方はなんかとってもご機嫌というふうで、手を上げてオーダーをしている。 「おーい、ここチョコレートパフェ大盛りとブレンド頼むよ」 「お、おう」  男子たちは僕と律のことを気にしながらも自分たちのやるべき仕事へ戻ってくれた。  僕は小声で前に座っている律に話しかける。 「律、コンテスト、勝手に抜けて来ちゃっていいの?」  僕の言葉に、ご機嫌だった律の表情が少し不機嫌なものに変わる。 「何言ってんだよ。それじゃ陽馬は俺があの女の子にキスしても良かったって言うのかよ?」 「違うっ」  それは絶対に絶対にやだし、……律の舞台の上からの告白、すっごくうれしかった。  でも舞台から降り僕のところまでやって来て二人であの場から去るのはやりすぎだったような……。 「でも、律、僕とのことを変に誤解されちゃうよ……?」  力なく口にした僕に、律の眉間に刻まれた皺が深くなる。 「誤解? 陽馬、おまえ、それ本気で言ってんのかよ? 俺たち付き合ってるって思ってたの俺だけだったの?」  律は本気で怒っていて、僕はどう言えばいいのか分からなくなってしまう。 「違う……そうじゃない、そうじゃなくて」  輝くオーラを纏うほどの容姿端麗で、ちょっと軽いけど優しくて、しっかり自分というものを持っている、僕にはもったいないできすぎた恋人。  でも、僕たちは男同士で。いくら世間が寛大になって来たとは言っても、やはりマイノリティであることは変わりなくて。  それでも例えば僕がすごい美少年であったりするのなら少しは律の隣にいても違和感がなかったのかもしれないけど、だけど実際の僕は冴えない奴で。 「僕みたいなのが相手だって分かったら律が変な目で見られちゃうから」  惨めでもう泣きそうだったけど、さすがにここで泣いたら最低なので必死にこらえながら言葉を吐き出す僕に、律は、呆れたようにはあ……と深く溜息をついた。

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