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第77話 ほんのわずかな自信でも

「ほんとにどこまで自虐がひどいんだよ、陽馬は。いつも言ってるだろ、おまえは可愛くてすごく魅力的だって」  そして僕の頭を優しく撫でてくれ、 「……ごめんな、陽馬」  唐突に律が謝って来た。 「え?」 「……以前にも言ったと思うけど、陽馬は原石なんだ。磨けばうんと綺麗になる。でも俺は今のままの陽馬が自然でいいと思うし、今のままでいて欲しいって思ってる……この気持ちは俺のエゴかもしれない」 「律……」 「それでも陽馬には俺だけのものでいて欲しいし、俺も陽馬だけのものでいたいんだ」 「…………」 「こんなにも陽馬のことが好きな俺のことを信じて」 「はい! チョコレートパフェの大盛りとブレンドお待ちどー」  シリアスモードの僕たちを遮って明るい声が響き、僕の目の前に生クリームがたっぷり乗ったパフェが置かれる。  同時に律の前には湯気を立ていい香りがするコーヒー。  それらを置いたウエイター役の男子生徒はまるでチェシャ猫みたいな顔で律に向かって聞いた。 「痴話喧嘩か?」 「……喧嘩なんかしてねーよ」  ぶっきらぼうに答える律。 「しっかし、傍から見てると、ほんとに仲いいのなー、二人」 「うるさい。あんまり見んなよ」 「仕方ないじゃん。勝手に目に入って来るんだから。ただでさえ律は目立つし、その上今は喫茶店この通りおまえら以外誰もいないし」  律は何も言葉を返さずコーヒーをブラックのまま一口飲んだ。  ウエイター役の男子がしみじみと続ける。 「律が最近変わったのはこの子の所為だったんだな」  少しの間のあと今度は律は言葉を紡いだ。 「……ああ。陽馬が純情だから俺まで感化されちまったって感じかな」  照れくさそうな律の口調に男子生徒はニコニコと笑う。 「すっごくいいと思う。前までの女の子たくさんのハーレム状態の律も同じ男としてある意味すごく羨ましかったけど。でもあの時の律はどこか冷めてたよな。今は違う。一途って言葉がぴったり来る律がすげー眩しく見えるよ」 「バーカ」  律が照れ笑いとともに言葉を返す。  律と男子生徒のやり取りを見ていると僕の心がスーッと癒されていく。 『陽馬のことが好きな俺のことを信じて』……か。  ウエイター役の男子生徒が行ってしまってから、僕は律に訊ねた。 「律、僕、律の隣で律のこと好きでいていいの?」  律は僕の髪をくしゃくしゃと乱す。 「当たり前だろ。俺の方こそ陽馬にふさわしい男にならなきゃっていつも思ってるんだから」 「え?」 「可愛くて純粋で、少し自虐癖はあるけど真っすぐで……そんな陽馬を守っていける男でありたいんだ」 「律……」 一点の曇りもない薄茶色の瞳に見つめられて、僕は少しだけ自分に自信が持てたような気がした。  こんなふうに少しずつ自信を持てるようになっていければいいのかもしれない。  律が好きだと言ってくれる僕を僕自身も好きになれるように……。

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