律の『大切な人宣言』は女の子たちの間に大きな動揺をもたらしたが、それでも律の人気は翳ることはなかった。 　閑古鳥の鳴いていた喫茶も律がウエイター役に戻った途端また教室からはみ出すくらいに大盛況になった。 　僕はチョコレートパフェのあとに律が入れてくれた紅茶をちびちび飲みながら恋人の働きぶりをこっそりと見つめていた。 　さっき律が僕を連れてコンテストの舞台から消えたので、女の子たちからは冷たく矢のような視線を浴びせかけられたけど、度々律が僕の座る席に来てくれたから救われた。 　律はもう学校では僕たちの関係を隠すつもりはないみたいだったが、あまりにも堂々としすぎてた所為か最後の方には、「あれって律の冗談じゃないの？」と囁かれる声があちらこちらで飛んでいた。 　僕はなんか安堵する気持ちと寂しい気持ちがない交ぜで複雑だった。 　二人の関係をちゃん信じてもらえないのは、今までの律の軽い言動の所為もあるのかもしれないが、やはり男同士だということが一番の理由だろう。 　あの律が同性を好きになったりするわけがない。 　そういう思いが誰の中にもあるから僕たちの関係を本気で信じる人はやはりごくごく稀なのだ。 　もし律があのとき選んだのが女の子だったとしたら、今頃はもっともっとそれこそ人気アイドルのスキャンダルのような騒ぎになっていただろう。 　そんなわけで途中からは女の子たちの鋭い視線もなくなり、僕はほとんど風景の一部と化してしまった。 　ただ僕が律と仲がいい友人同士だということはみんな認識したみたいで、たまに律に近づく手段として僕に声をかけて来ようとする女の子はいた。 　けれど、そんな女の子たちはきっちり律に阻まれて僕に近づくことさえ許してもらえなかったけど。 　後片付けを終えるまで一緒にいて僕と律は二人揃って家路に着く。 　……今日の文化祭は本当色々あったなー。 　そんな感慨にふけっていると、律が僕の顔をのぞき込んで来た。 　なんだかすごく楽しそうだ。 「ねー、陽馬。手繋いで帰ろうか？」 「へっ？　な、なんで？」 「だって、俺たちカミングアウトしたから、もう何も隠すことないし」 　律はクールで端整な顔を無邪気にほころばせてそんなことを言ってくるが、ここは天下の往来だ。 　普通の男女のカップルでさえ手を繋いでラブラブイチャイチャバカップルぶりを発揮しているのはほんの僅かだというのに。 「や、やだよ」 　それでなくても律は凄く目立つのにここで二人手なんか繋いだらどんなことになるか。 　僕が手を繋ぐことを拒むと律が拗ねた。