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第79話 大好き

「陽馬、冷たいー」  ツンと顔を逸らしてしまう。 「律、律ってば……ねー律……」  何度呼んでも拗ねた律はなかなかこちらを向いてくれない。 「部屋で二人きりになれば、いくらでも繋げるじゃないか……」  僕がそう言うと律はちらりとこちらを見た。  しかしまだ少し機嫌は悪そうで、 「俺は今、ここで、陽馬と手を繋ぎたいんだけど」  そんなわがままを言ってくる。 「ど、どうして? みんなに見られちゃうのに?」 「陽馬のこと見せびらかしたいんだよ」 「は?」 「俺の恋人はこんなに愛くるしいんだって、道行く人に自慢したい気分なの」 「…………」 「それに陽馬の手って男なのに柔らかくて気持ちいいんだもん」  ……母さんだって僕のことこんな良くは言わないぞ……。  律の審美眼や感覚はいったいどうなっているんだろ?  そんなことを考えてるうちに律に強引に手を繋がれてしまった。 「律っ……」 「陽馬、顔、真っ赤。かわい」 「律、離して……」  願いは受け入れてもらえず、律は僕の手を握ったままだ。  それはもう見られに見られた。  文化祭のときのを合わせて一生分の視線を浴びたと言っても過言ではない。  そりゃ見られるわなー。男同士の上に片一方はアイドル顔負けの美形だもん。  つくづくと思いながら、最初のうちはただただ恥ずかしいだけだったけど。段々ほっこりとした気持ちになって来た。  繋いだ手から律の気持ちが伝わってくるような気がするから。  律の方を見上げると目と目が合った。優しく微笑んでいる薄茶色の宝石。  ……僕の気持ちも同じように律へと伝わってるといいな。  こっそりと考えながら、僕たちは家への道をゆっくりと辿った。

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