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第80話 進路

 二人揃って自宅へ帰りつき、家族揃って夕食を取った後、順番にお風呂へ入った。  そのあと僕は自室へと行き、いろいろあった所為で疲れて眠い目を擦りながらも参考書を開き勉強を始める。  ともすれば忘れそうになってしまうが僕は今受験生真っ只中だ。  第一志望のK大にはこのまま頑張れば受かるだろうと先生から太鼓版を押されている。それでも油断は禁物だ。  僕は上がり症だから受験本番にはきっと百パーセントの力は出せないだろうから、どれだけ勉強をしてもしすぎるということはない。  そこでふと思う。律なら絶対飄々と受験を乗り切るんだろうな、と。  ……でも律は大学には行かないでデザイン学校に行くんだよな。  T大に余裕では入れる実力を持っているのに。  ……そういえば律、もう父さんに将来の夢のこと話したんだろうか?  参考書を広げたままボヤッと律のことを考えていると、階下から父さんの怒鳴り声が聞こえて来た。  僕は眉を顰める。  父さんは温厚な性格で、僕が知る限りこんなふうに声を荒らげるなんて初めてだった。  気になって部屋の外に出ると、ちょうど階段を上って来る律と鉢合わせた。 「律……父さん、どうしたの?」  僕が問いかけると、律は部屋の中へ入るように促す。  僕たちはベッドに並んで座ると、律がおもむろに話し出した。 「もうすぐ三者面談が近いだろ? だから父さんに『デザイナーになりたいからT大に行く気はない』ってはっきり言ったんだよ。そしたら思い切り怒鳴られた」  律が苦笑する。 「父さんは律の夢に反対なの? なんか信じられなかった。あんなふうに怒ってる父さん珍しくて」 「父さん、ああ見えてすごい学歴コンプレックスあるから。どうしても俺にはT大に行って欲しかったんだろうね」 「そうなんだ……?」 「うん。でも、それでも俺は自分の夢は諦めないから。どうしても父さんが反対するのなら家を出ても夢を追いかける」  律の真っ直ぐな瞳と言葉に、しかし僕は愕然とする。 「え!? 律、この家出て行っちゃうの? やだよ、そんなの。僕。絶対やだ」  律には夢を追いかけて欲しいし、僕も律の夢を応援してる。  けれど律がこの家からいなくなっちゃうのは嫌だ。  パニックになる僕の頭を律はゆっくりと引き寄せた。 「落ち着いて、陽馬。家を出るのは最後の手段だよ。まだまだ父さんを説得してみるし」 「でも……」  不安がる僕の頭を優しく撫でながら、律が言葉を紡いでいく。 「それにもし、もしもだよ? 家を出ることになっても陽馬と俺の関係は何ら変わんない。俺は陽馬だけが好きだし、愛してる」 「でも、律……」  やっぱり僕の不安はやまない。  だって出て行っちゃったら、今みたいに頻繁には会えない。  隣の部屋に律がいる安心感みたいなものさえなくなってしまう。 「そんな顔すんなって、陽馬」  律がそっと僕の髪にキスをする。 「なあ、陽馬。それより父さんに頭からデザイナーの夢否定されて、俺結構へこんでるんだけど、おまえが慰めてくれない?」

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