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第84話 許された夢

「律……」  一瞬、僕は律が怒ってるんじゃないかと思った。  律は僕と父さんのやり取りを立ち聞きしてしまったに違いない。  差し出がましい真似をした僕を不快に感じたんたんだと。  ……でも、違った。  律は僕と目が合うトロトロにとろけるように破顔した。  そして僕のことを思い切り抱きしめて来たんだ。 「り、律っ……ちょっと……」  僕が律の腕の中でジタバタしても全然離してくれない。  と、父さんが後ろで見てるのにっ。 「陽馬……ありがとう……」  耳元でささやかれる律の甘い声。その声を聞いた瞬間、僕もまた感極まってしまい、さっきまでの抵抗はどこへやら律の背中に腕を回す。  恋人の広い背中をポンポンと優しく叩いた。 「……良かったね、律」 「陽馬のおかげだよ」  完全に二人の世界へと浸っていると、父さんの声が飛んできた。 「律と陽馬は本当に仲がいいねぇ」  ひしと抱き合う僕たちのことを父さんは恋人同士の抱擁とは欠片も思わず、家族としてのハグと思ってくれたようだ。 「そこでみんな聞いてたんだろ? 律、デザイナーになると言うなら必ずなりなさい。誰よりも陽馬がそれを望んでいるからな」  律は僕を抱きしめる腕を少しだけ緩めると父さんの方を真っ直ぐに見て言った。 「分かってる。絶対になってみせるから」  律の力強い宣言に、僕はちょっぴり泣いてしまった。

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