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第86話 母さんの応援―胸が痛い―
そんなこんなでいつものようにじゃれ合っていると、扉がノックされる。
「はい?」
「律くん、私。入ってもいいかしら?」
母さんだ。
律は僕を腕の中から解放すると、応答した。
「どうぞ」
「お邪魔するわね……あら、陽くんもいたの?」
「うん。いたよ」
「本当に仲いいわね、ふふ。あ、律くん、お父さんがデザイナーになる夢を許してくれたのね、おめでとう」
「ありがとう、母さん」
律が嬉しそうに答える。
母さんもまた律に嬉しそうに笑い返してから、次に僕に話しかける。
「陽くんも絶対にK大に入るってお父さんに言ったんだって? 二人とも素敵、私全力で応援するからね。おやつとお夜食は任せておいて」
ニコニコと本当にうれしそうに笑う母さん。
ここ最近はずっと家庭内がピリピリしていたので、母さんは心を痛めていたのだろう。
息子の僕が言うのもなんだが、母さんはとてもやさしい理想の母親だ。
いつも家庭が平和で幸せであることを誰よりも願っている。
律のことも僕と同じように本当の息子のように思ってる。
僕はまた胸の痛みを感じた。
……父さんもそうだけど、母さんが僕と律の本当の関係を知ったら……。
律について行くとは決めているけど、僕たちが恋を全うするときは全てが壊れるとき。
僕はゲイだから元々結婚はできないとずっと思って来た。それが原因で母さんを悲しませることになるだろうと。
けれど、血は繋がってないないとはいえ家族……律の言葉を借りると一日違いだけど兄……と恋人関係にあるなんて知ったら、そのショックは計り知れないと思う。
「どうしたの? 陽くん。浮かない顔して」
憂い顔の僕に母さんがちょっぴり心配そうに聞いて来る。
「なんでもないよ。僕、勉強うんと頑張るからね」
とりあえず笑ってごまかす僕。
「そうね。……でも体だけは壊さないでね。律くんも陽くんも。分かったわね?」
「うん」
見事にハモッて返事した僕たちに、母さんはまたクスクス笑う。
「息ピッタリ、仲良しさんね」
そんな言葉を僕たち二人に投げかけると部屋を出て行った。
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