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第89話 それじゃ足りない
「ほら、早く陽馬」
「ううう」
「陽馬も覚悟決めてくれてるんだろ?」
律が薄茶色の瞳で僕のことをジッと見つめて来る。
僕はこの瞳には敵わないんだ。
父さんと母さんが談笑している声が微かに聞こえる中、僕は背伸びをしてふわりと律の唇にキスをした。
「……こ、これでいい?」
僕からの精いっぱいの口づけ。
でも律は許してくれなくて。
「だめ、もっと」
僕の腰をグイと引き寄せると、形のいい唇を押し付けて来て深いキスをして来た。
入って来る律の熱い舌。
抑えきれずに零れる甘い吐息。
受け止めきれない唾液が顎を滴り、フローリングに落ちる。
巧みなキスの快感に浮かされて僕が腰から崩れ落ちそうになるのを律が力強い腕で支えてくれる。
もうこうなってしまうと、見られるかもしれないという不安さえ甘い媚薬へと変わってしまうのだ。
結局父さんと母さんに見つかることはなく、僕は長いキスから解放された。
律はチュッと音を立てて僕から唇を離すと、次におでこに軽いキスをしてから艶やかな笑顔とともに囁いた。
「オードブルだけじゃ足りないな、フルコースを……陽馬の全てを食べちゃいたい」
「え? で、でも」
なんて一応は拒絶っぽい態度を取りながらも、僕の体はさっきのキスですっかり盛り上がってる。
それに今夜は律の夢が父さんに認められたこともある。
お祝いに僕をささげちゃうのもありかな……なんてことを考えてしまうのは僕も律に感化されてちょっとエッチになっちゃたのかな?
「陽馬の上目遣い、やらしい。食べて欲しいって言ってる」
律が僕の耳に舌を這わせながら低く囁く。
「めちゃくちゃにしてやりたい……陽馬……」
ぞくりとした感覚が僕の体を走り抜ける。
律は僕の体をしっかりと抱きしめたまま、僕の部屋のドアノブに手をかけた。
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