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第97話 ジョーク?

「……ブレンドですね。かしこまりました」  僕は何とか引きつった笑顔を浮かべるとそそくさとその場をあとにした。  カウンターの中ではマスターが心配していた。 「大丈夫かい?なんだか注文取るのに随分時間かかっててみたいだけど」 「大丈夫です。マスター、ブレンド一つ」  チラリと派手男の方を見るとニヤニヤ笑いながらこちらを見ている。  本当になんなんだろう? 去年の文化祭のことなんて出してきて。  コーヒーができるのを待ちながら僕はいろいろ考えた。  そして一つの可能性にぶち当たったのだ。  彼は律のことが好きなんではないか。  一気に嫌な気持ちになった。  不機嫌さをできるだけ隠してコーヒーを派手男に持っていく。  派手男は相変わらずニヤニヤしながら僕の顔を見つめ、失礼なことを言った。 「あんたって、本当冴えなくて地味な野郎だな。俺と正反対って言うかー」 「……っ……」  確かに全てその通りだったけど、なんで今日会ったばかりの奴にそんなことを言われなきゃいけないのか。腹が立って仕方なかった。  でも、こんなに僕のことをけなして来るということはやっぱり律のことは好きってこと?  律は綺麗だから男だって魅了することは分かっているけど、それでも嫌で仕方なかった。 「……お待たせしました、ブレンドです」  随分と険しい声が出る。 「ちょっとー、だめじゃん。冴えないんだからせめて愛想くらい良くしなきゃー」  軽い口調で揶揄うように言ってくる派手男を僕はせめてもの抵抗とばかりに睨みつけてやると、「ごゆっくりどうぞ」と言葉を投げ捨てその場を離れようと踵を返した。  その背中に投げかけられる派手男の軽い口調での言葉。 「知ってた? 俺もあんたと同じK大なんだよ」 「え?」 「まあ学部が違うから気が付かなくても仕方ないんだけど、俺は大学で何回かあんたのことを見かけてる」 「……同じ大学だからなんだって言うんですか?」  本当にこの男は何を言いたいんだろう。  律のことが好きなら僕と同じ大学でも何の関係もないだろうに。 「いや。良かったなーと思って、同じ大学で。今日もあんたのこと見かけたからあとつけてここでバイトしてること分かったんだし」  なに? あとつけてって……。  思わず派手男の顔をまじまじと見てしまう。  派手男は変わらず軽い調子で言葉を続けた。 「あんた、その眼鏡、まじ冴えないけど、よく見ると可愛い顔してるじゃん」 「は?」 「さすが佐藤律が告った相手だけあるね」 「あ、あれはただの冗談ですから」  僕の派手男に対する第一印象は悪く、僕はこんな奴に律との関係をカミングアウトする必要なんてないって思ったんだ。  すると派手男は何やら意味深に笑った。 「冗談ねー。まあ、別に告白が冗談でもなんでも、佐藤律があんたに思い入れしてることは確かなんだから」 「……あなたは律のなんなんですか? 友達?」  あんまり律律言うから僕もいい加減不機嫌が頂点だ。 「えー? 元カレ?」  一瞬、心臓が止まったかと思った。  しかし派手男はすぐに思い切りふきだす。 「なーんて、冗談に決まってんじゃん。俺と佐藤律は友達でさえないよ。でも、ここらであいつのこと知らない奴なんかいないじゃん。それにしても分かりやすい反応するね、あんた。素直って言うか」 「…………」  僕は派手男をきつく睨みつけたが、そんなものには動じないとばかりに涼しい顔でコーヒーを飲んでいる。  その時ドアベルを鳴らして常連のお客さんの二人連れが入って来た。  僕はそれを機に派手男の元を離れた。  しばらく派手男は大人しくコーヒーを飲んでいたが、やがて伝票を片手にレジの方へと歩いて行く。  もうこれ以上彼の相手はしたくなかったのだが、マスターは常連たちと話の花を咲かしている。  仕方なく僕はレジへと向かった。 「五百円となります」  もう愛想を振りまく気分にもなれなくて、事務的に言うと、派手男がお金を出しながら嬉しくない言葉を投げかけて来た。 「また来ていいかな?」 「…………」  本当はもう二度と来て欲しくなかったが、この店は僕の店じゃないから、勝手なことは言えない。  僕は心持ち視線を下げると、小さく言葉を振り絞った。 「……お客様ですからいつでもいらっしゃってください。でも、今日のような訳の分からないことを口にするのはやめて欲しいです」  派手男は大袈裟に目を見開くと、ごつい指輪がはまった指で僕を差して高々と言った。 「俺、あんたのこと口説いてたつもりなんだけど」 「…………」  派手男でパリピで超陽キャな奴の言う冗談は僕には理解できないとつくづく

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