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第98話 恋人同士の時間
いつもより三倍くらい疲れて帰宅する。
律はまだバイトから帰っていない。
確か今日は少し遅くなるって言ってたことを思い出し、先にご飯を食べ、お風呂に入り、自室で律を待つ。
しばらく今日あったことを反芻し、派手男のことを思い出す。
律にあの男のことを話そうかどうしようか迷ったが、まだたった一度来ただけの客だし、口説いてるとかあいつは言ったけど、僕は口説かれた覚えはなかったし、あれは単なる冗談だろう。
それでも話したら律は心配しちゃうだろうし。……うん、話さないでおこう。
もし何度も来るようなら相談することにして。
そう決めると、鞄の中から大学の教材とレポート用紙を出し、机に向かう。
来週までに仕上げなければいけないレポートがあったので、とりかかったのだが、十分もしないうちに眠り込んでしまった。
額に当たる柔らかな感触と頬に当たった水滴に僕の意識がゆるゆると目覚めていく。
眼鏡がずれて、ぼんやりとした視界に映るのは、見慣れた、でもいつ見ても心臓に悪いくらい綺麗な顔。
「……律、いつ帰って来たの?」
「ちょっと前。んで、飯食って風呂入ってここへ来た」
眠気の残滓が完全に取れ、頭がクリアになった僕は律の濡れた紙にそっと触れた。
「髪、ちゃんと乾かさないと風邪ひいちゃうよ?」
「だって少しでも早く陽馬に会いたかったんだもん」
「律……」
「二人ともバイトしてるから仕方ないけど、以前より陽馬と一緒に入れなくて寂しいよ」
「それは、僕だって。……でも二人のためだから」
「うん。二人で暮らすためだもんな。でも、陽馬、バイトしんどくない? やなこととかあったらすぐに俺に言えよ?」
律の綺麗な薄茶の瞳が心配そうに僕を見おろす。
「律もね……僕じゃ頼りないかもしれないけど、何かあったら相談してね……それと体、壊さないでね、律は深夜のシフトも多いから心配だよ」
律の瞳を見つめ返すと、ふっと微笑む。
「ありがとう、大丈夫だよ。無理のないシフトで働いているし。でもやな客に当たったときは陽馬が癒してくれよ……?」
「ん……任せて」
見つめ合い、笑い合いながら律が僕を抱きしめたままベッドへとなだれ込む。
そっと眼鏡を外され落ちて来る律の唇。
律の舌が入り込み口内を蹂躙しつつ、彼の細く長い手が僕のパジャマのボタンを外していく。
「ん……律……」
律の唇がぼくの耳の後ろから首筋、前回にされた胸元を噛みつくような勢いで這って行く。
気持ちよくて、でも何だか切なくて、僕は律の頭を掻き抱きながらうわ言のように愛する人の名前を呼んだ。
「律……律……」
「陽馬……可愛い……」
律はすっかり勃起した僕の性器をパジャマのズボンの上から何度もキスをする。
布越しの愛撫じゃ物足りなくて、でも、はっきり「もっと、ちゃんと、して欲しい」という言葉を口にするのは恥ずかしくて。
でも律は誰よりも僕の願いを知っていてくれて。
ズボンと下着を降ろすと、性器をむき出しにした。
律がジッと僕のそこを見つめえる気配がした。
「陽馬のここ……すごい勢いで勃ってる……」
「やだっ……そんな見ないで……!」
恥ずかしくて僕は身をよじって逃れようとしたが、律はそれを許してくれない。
先っぽにそっとキスを落とすと、律は僕の性器を口に含んだ。
「ああっ……」
僕の甘い悲鳴が部屋中に響き渡る。
律は僕のそこを舐めたり、軽く歯を立てたりしてどんどん僕を追い詰めて来る。
そしていったん口から出すと、少し掠れた色っぽい声で囁く。
「陽馬のこれ、俺の唾液で濡れて、すげーヤラシイ色になってるよ……」
「…………」
僕はもう恥ずかしさのあまり言葉も出ない。
律の声と言葉に耳朶さえ犯されている気持ち。
「陽馬の飲ませて……」
律が言い、再び僕の性器をくわえ、強く吸い上げて来た。
「ああっ……やぁ……っ……」
頭の中で何かがはじけ、僕は律の口内に射精し、そのまま意識を手放した。
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