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第102話 vs2
テーブルに手をつき、すごい怖い表情で永井のことを睨みつけている。
永井は一瞬その鋭い視線に臆していたが、すぐに好戦的な笑みを浮かべると、
「おー、本物の佐藤律だー。俺近くで見るの初めてなんだよね。めっちゃイケメン」
軽い口調で言ってのけた。
「……陽馬の仕事の邪魔してんじゃねーよ」
とってつけたような永井の誉め言葉を無視し、律が冷たく鋭い声を出す。
な、なんだか律と永井の間に火花が散っているような気がするのは気のせいだろうか?
「邪魔なんかしてないぜ? たのしーくおしゃべりしてただけだよ」
「だ、誰が楽しくおしゃべりなんかっ……!」
永井の嘘を僕は慌てて否定する。
律が何故か機嫌悪そうなので刺激しないで欲しい。
律はもう一度それこそその場が凍り付きそうなくらい冷たく鋭い目で永井を一瞥すると、その場から離れて別のテーブルに座った。
僕は永井に一礼すると律のテーブルに向かう。
「律、どうしたの? 急に来るからびっくりしちゃったよ」
「おまえが仕事しているところ見てみたくてバイト早く上がらせて貰ったんだよ」
ぶっきらぼうに言い放つ律はやはり機嫌が悪そうだ。
僕、何かしただろうか?
「そうなんだ。……あ、そうだ、律、ご注文は?」
僕はビクビクとオーダーを取る。
「……ココア」
「えっ?」
珍しい。律は大のコーヒー党だというのに。
僕が驚いていると、律がポツンと呟く。
「苛々しているときは甘いものを取ると良いっていうから」
「……」
律は微かに眉間にしわを寄せ形のいい唇をキュッと結んでいる。
律のそんな表情を見るのは僕にとって悲しくて、少し怖くて。
「……ごめんなさい」
僕が謝ると律は切れ長の目を見開いた。
「……何で陽馬が謝るの?」
「だって……律が苛々する原因なんて僕以外にないから……」
「陽馬……」
途端に律の不機嫌のオーラは消え去り、ふんわりとした柔らかな笑みを浮かべた。
「……陽馬ってほんと癒しキャラだよな。ココアよりも即効性あるわ」
「律……」
「大丈夫。苛々の原因は全然おまえじゃないから」
「ほんとに?」
「ほんと」
律の笑顔が余りにも綺麗で愛しくて、僕は束の間バイトをしている空間、時間であることを忘れてしまい、ちょっと甘えたような声を出してしまった。
周りから見ればじゃれ合っているようにも見えただろう僕たちの別のテーブルでは永井が荒々しく音を立てて椅子から立ち上がった。
そして注文したコーヒーも届いてないのにレジにお金を置くとこれまた荒々しく音を立ててドアを開け出て行ってしまった。
ほんとなんなんだか。訳がわかんない。
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