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第106話 本当の意味での覚悟

「律ってば、もうどういうつもり!?」  快楽の熱が去り、体を綺麗にしてもらい、衣服を整えて貰ってから僕は律に猛抗議した。 「何が?」  なのに律はしらばっくれる。 「何って、あんな状態になってるのに、その、こ、行為をやめなかったことだよ」 「……いつも階下に母さんたちがいてもシテるだろ」 「き、今日は別だろ! だって母さんがすぐ扉の前まで来てたんだよ!? もし母さんがあの扉を開けてたら……」 「そのときはありのままを見てもらうだけだよ」 「…………」  とんでもないことをサラッと言ってしまう律のぶっとんだ態度に、僕は言葉を返すことができずポカンと口を開けてしまう。 「なんて顔してんだよ。俺だって自分から他人に……ましてや親に、セックスしているとことを見せたがる性癖はないよ」 「だったら……」 「ただ覚悟はある」 「覚悟……」  それなら僕にだってある。  でも、律のそれはもっともっと大きなものだった。 「俺は陽馬のことを愛してるから心も体も欲しい。真剣だからおまえとのセックスを見られることに後ろめたさや恥ずかしさは感じない」 「……僕だって真剣だよ。でも」 「分かってる。それに俺もわざわざ自分から見せたがってるわけじゃないし。たださ、陽馬、俺たちのことで父さんや母さんに罪悪感を持たないで欲しい」 「罪悪感……?」 「持ってるだろ? 罪悪感」  律の薄茶色の瞳が僕の瞳をのぞき込んで来る。  その綺麗な瞳は何もかも知っているように澄みきって深い。  確かに律の言うとおりだった。  律との関係にぴったりくっついて来る罪悪感。  黙り込んでしまった僕の髪を律が優しく撫でてくれる。 「俺たち、決して悪いことなんかしてない。そうだろ?」 「……うん……」  律の覚悟の大きさが僕には眩しかった。  カミングアウトをするっていうことの重大さを改めて突き付けられたみたいな気持ちだった。  僕は律が好き。愛してる。  誰よりも誰よりも大切な人。  いつも、いつまでも一緒にいたい。  ただその事実は絶対に父さんや母さんを傷つけ悲しませる。  男同士ってだけで決して祝福はされない。  僕はそれに耐えられるだろうか?  「陽馬? どうかした?」  律が心配そうに聞いて来る。 「何でもない。……律……」  僕は恋人に抱擁をねだった。  強く腕の中に抱きしめてくれる律。  僕は彼の胸に顔を埋めた。カミングアウトする覚悟が少し揺らいしまったような気がして。  そんな心の揺らぎから逃れるように僕は律の鼓動を聴きながらきつく目を閉じた。

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