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第109話 惚気

 息を弾ませて僕の元へと律が来てくれる。 「どうしたんだ? 陽馬。……何かあった?」  優しい律。  僕が急に来たことに対して、すごくうれしそうにしながらも、僕の身になにかあったんじゃないかと心配ものぞかせてる。 「大学、休講になっちゃって。……それでなんだか急に律に会いたくなっちゃって。……迷惑だった?」 「そんなわけないだろ。あー、もう陽馬、おまえってなんでそんなに可愛いんだよ」  律は言うとぎゅっと僕を強く抱きしめる。 「りっ、律! だめだよ。こんなところで。離して」 「やだ。だっておまえ可愛すぎるんだもん。俺のところへ会いに来るなんて嬉しすぎるんだもん」 「りーつくんー」  声を掛けられて、見ると、いつの間にかさっき律と一緒にいた男子生徒たちが傍にやって来ていた。  男子たちはニヤニヤと冷やかすような笑みを浮かべながら律と僕を見て、聞いた。 「その子が例の陽馬くん?」  ……『例の』ってなんだ?  訝しんでると、律はようやく熱い抱擁から僕を解放した。  そして彼らに向かってとんでもない爆弾発言をしたんだ。 「うん。俺たちの両親が再婚したことでできた弟で、恋人」 「り、律っ……」  僕が慌てていると、律が優しく微笑んだ。 「大丈夫、陽馬。こいつらは俺たちが真剣に愛し合ってること理解してくれてるし、応援もしてくれてるから」 「えっ……」  僕が絶句していると、律の友人たちの一人が口を開いた。 「そうそう。俺たち、例の文化祭で律と陽馬くんを見ててさー。ほんとのところはどうなんだって律に聞いてやったんだけど、そしたら、こーんなクールなルックスしてるくせして惚気を言うわ言うわで、さー」 「…………」  友人の思いがけない言葉に、僕が律を見上げると、彼は照れくさそうに笑っている。  更にもう一人の友人が言う。 「陽馬くんのことを惚気る律があまりにも幸せそうで、ああ、あの文化祭での告白は本気だったんだって気づかされたんだ」  律の友人の口から紡がれるのは、僕たちの仲を祝福してくれるものばかりで。  さっきマネキュアの女性に卑屈な気持ちを抱いてしまったことの反動で、僕は少し泣いてしまった。  途端に慌てる律と友人たち。 「大丈夫か? 陽馬。なんかやだった?」 「……ちが……、嬉しくて……」  涙声で僕が答えると、律はよしよしと頭を撫でてくれる。  友人たちも、 「俺たちはみんな二人の味方、応援してるからな」  と、こぞって応援してくれた。  授業開始の音楽が鳴ったけど、流石に僕は参加できない。 「おまえ、今日はバイトない日だろ? 俺も遅番のシフトだから、久しぶりにプチデートしよう。……そこの茶店でケーキでも食べて待ってて」 「ん。分かった」 「チョコレートケーキがお勧めだよ」  律はそう付け加えると、友人たちに冷やかされながら建物の中へと入って行った。  律に言われた通り、専門学校のすぐ斜め前にある喫茶店に入り、チョコレートケーキセットを注文する。  鞄の中から文庫本を出して読み始めると、テーブルの上に赤いマネキュアの手が置かれた。  ビクッと顔を上げれば、さっき馴れ馴れしく律に近づいていた赤い唇と長い髪が印象的な美女の姿。 「……ここ、いいかしら?」  美女は、他にも席がたくさん空いてるにもかかわらず僕と同じテーブルの向かいの席を希望し、僕がまだ何も返事をしないうちにその席に腰かけた。

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