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第112話 離さないで

 ギシギシと淫らに軋むベッド。 「陽馬……」 「あっ……律、律っ……」  掠れた律の甘い声と、自分のものじゃないような切ない僕の喘ぎ声が鼓膜まで犯していく。  僕の中で律の雄が暴れまわっている。  気持ちいい。  それだけしか考えられなくて。  世界には、ううん、宇宙にさえ僕と律の二人きりしかいないような錯覚に陥る、一つになっている瞬間。 「……っ……」 「ああっ……律……あっ……ああ……」  僕の中で律がイき、僕もまたイく。  肩で息をしながら律が僕の上に落ちて来た。  愛しい重み。  律が僕の中から出て行こうとするのを彼の背に腕を回してとめる。 「律、もう少しこのままでいて……」 「いいけど、体、拭かないで気持ち悪くないか? 陽馬」 「ない」  お願い、もう少し一つに繋がったままでいさせて。 「……陽馬、まだ不安を感じてる?」 「…………」  優しく髪を撫でてくれながら問いかけて来る律から視線を逸らす。  すると律は僕の顎を持って強引に視線を合わしてきた。  彼の綺麗な薄茶色の瞳は少しだけ不機嫌そうな色を浮かべている。 「そんなに俺のことが信じられない?」 「そんなこと、ない」  信じてる。  信じてるよ。律が僕だけを愛してくれていることは。でも。  でも、一年後は? 二年後は? 永遠にこの恋が終わらないと言い切れるの?  百年の恋も冷めるときがあるとか言うじゃないか。  それに僕はゲイだけど、律はそうじゃない。  完全なノン気ではないとしても女の子ともちゃんと付き合うことができる。  僕の心の奥底にはいつも律に振られる不安があって。  どうしてもその不安はとれなくて。  怖いんだ。  律が僕から離れていっちゃうのが、怖くてたまらない。  気持ちがマイナスな方へと流れて行くのをとめられなくて、涙が滲んで来る。  泣き顔を律に見られたくなくて、縋りついていた背中から両手を離して、自分の顔を隠した。   そんなどうしようもなく重い僕に律は呆れたのか、小さく溜息を落とすと僕の中から出て行ってしまった。  とろりと律が放った精液が流れ出す。  この愛された証が出て行ってしまうように、いつか律の心の中から僕が消えてしまう日が来るんだろうか?  やだ……! 「やだ! 律」  僕から体を離そうとする律に抱きついて、必死にとめた。 「陽馬……」  見えない未来に怯える僕を律はそっと抱きしめ返してくれる。 「泣くなよ、陽馬」  気づけば僕はポロポロ涙を零して泣いていた。  不安で、不安で、不安で。 「律、ごめ……」  涙で詰まる声で謝れば、律が唇で涙をそっと吸い取ってくれ、 「おまえが泣くのが一番辛いし、おまえが不安になると俺も不安になる……」  寂しそうにそう言った。

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