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第114話 危機
資料が置いてあるのは確か奥の部屋だったっけ……。
僕がこわごわ足を進め、奥の部屋へ続くドアを開け、中へ入ると、後ろで勢いよくドアが閉まった。
「ひっ」
びっくりして思わず振り返ると、永井がドアの傍に立っていた。
「ちょっ……びっくりさせないでよ」
「陽ちゃん、怖がっちゃって、かーわいい」
クスクス笑われてムカッと来た僕は、永井を無視して資料を探し始める。
すると、突然後ろから抱きつかれた。
「わっ」
再びびっくりして振り返ると、永井の顔が至近距離にある。
「な、なんだよ!? 離してよっ」
僕は必死になって体に絡みつく永井の腕を振りほどこうとするが、強い力で抱きつかれていて逃げることができない。
そして、永井はとんでもないことを言ったんだ。
「陽ちゃん、ヤらせてー」
「なっ……」
「一回だけでいいからさ。いいだろ、減るもんじゃなし」
永井は使い古されたセリフを口にしてグイグイ僕に迫って来て、キスされそうになる。
「冗談はやめてよ!! 離せってば!!」
近づいて来る永井の顔を必死に避けながら叫ぶ。
「冗談なんかじゃないよ。俺、本気で陽ちゃんが好きだから。……佐藤律に操立てしてんの? 大丈夫、ばれやしないって。俺と楽しもうよ」
「誰が! ぼ、僕が資料を持って行かなかきゃここに教授が来るから……」
「あの教授はいい加減だから、陽ちゃんが資料を持って行かなきゃ、放っておくよ」
僕の抵抗の言葉もさらりとかわして、永井は埃っぽい床に僕を押し倒した。
上から体重を掛けられて身動きができない。
それでもめちゃくちゃに手を振り回して抵抗していると、永井の顔にヒットする。
「いってー、てめぇ、何しやがる!!」
僕に殴られた形になった永井が逆上して僕を平手打ちし、シャツを引き裂く。
今までのチャラ男ぶりが豹変し、DV男になった永井に僕は本気で恐怖する。
「やだっ……やっ……!」
「大人しくしろってんだろ。一回ヤったらおしまいにしてやるから。あの佐藤律の恋人とヤったなんて自慢になるからな」
「な……」
「おまえになんて本気で惚れてたとか思ってた? んなわけねぇだろ。冴えない眼鏡男になんか俺が相手にするわけないだろ。佐藤律のマジ恋人ってんで興味があるだけだよ。あー、このこと佐藤律にチクるなよ?」
あまりの酷い言われようにさすがの僕もめちゃ腹が立ったし、何よりもこんなやつに……ううん、律以外に触られるなんて冗談じゃない。
僕は必死に抵抗したがチャラ男の力は思ったよりも強く体の素肌のあちこちを指が這っていく。
おぞけが走った。
律、律、助けて!
心の中、この場にいない最愛の人に名前を何回も呼ぶ。
抵抗しすぎて僕はもうぐったりしてしまっていた。
それをチャラ男は合意とみなしたのか手の動きが大胆になり、僕に全体重をかけて拘束していた体に一瞬だけど隙ができて。
とろくひ弱な僕のどこにそんな力が隠されてたのか不思議だったんだけど、気づけば永井の股間を足で思い切り蹴り上げていた。
「――――」
声もなくその場に崩れ落ちるチャラ男永井。
僕はふらつく体を必死に立て直すと、その場から脱兎のごとく逃げ出した。
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