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第115話 律と律子

 破かれた服もそのままに僕は律の元へと向かう。道行く人たちが何事かと思うくらいに必死に。  この傷ついた心を癒せるのは律だけだから。  やっとの思いで律のいる専門学校に辿りつくと、呼び出してもらうまでもなく、彼は外にいた。 「り……」  声を掛けようとして思いとどまる。  律は一人ではなく、律子さんと一緒にいたからだ。  永井には散々な目に遭わされ、今また律と律子さんのツーショットを目撃してしまう。  いったい今日はなんて日だって泣きそうになるが、それは僕の誤解で。  確かに二人きりでいるのだが、そこに甘い雰囲気は微塵もなく、律は凄く冷たい表情で律子さんのことを見ている。  風に乗って二人の会話が聞こえて来る。 「どうして? あんな冴えない奴のどこがいいのよ?」 「律子には関係ない」 「あんな子、律には似合わないわよ、あんなダサい――」 「それ以上陽馬を侮辱すると、許さない」  律の声は決して激高したそれではなかったけれども、僕には彼がかなり怒っていることが分かる。  律子さんは今日も綺麗に塗った赤い唇で律に詰め寄る。 「どうして? あたしたち、運命の相手でしょ? おんなじ夢を追いかけて。それにあたしの方が絶対に律の隣に似合うわ」  どんなに律が冷たくあしらっても、彼女には絶対の自信みたいなものがあるのだろう、口元にはまだ薄っすらと笑みが浮かんでいる。律を誘うような笑み。 「悪いけど、俺は律子のことそういう対象として見たことないよ。良い仲間だと思っていた。でもそれももう終わりだ。だっておまえは陽馬を傷つけた」  律はぴしゃりと律子さんを遮断すると踵を返す。  その背後から今度こそ余裕を失った律子さんの声が追いかけて来た。 「あたし、あきらめないわよ! 律の相手はあたしじゃなきゃいけないんだから。絶対あんなダサい子なんかに渡さないから」  もう律は彼女のことなど相手にすることなくこちらの方へと歩いて来て、立ち尽くしている僕に気づいた。 「陽馬!?」 「律……」  僕は永井に襲われかけたショックからようやく立ち直れたことと、律がはっきりと律子さんに言ってくれたことがうれしかったので体から力が抜け、その場に崩れそうになる。 「陽馬!!」  そんな僕を律が支えてくれる。細身なのにしっかり筋肉がついた力強い腕が。 「陽馬、そのシャツ、どうした?」  律が、永井に破かれた僕のシャツに気づく。  鋭い声で問い詰められて、僕は全てを話した。                                                                        

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