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第121話 写真
その写真が届いたのは、それから数日後のことだった。
その日は僕はバイトは休み、律も早番で、部屋で久しぶりに勉強を教えてもらっていた。
すると、ノックもせずに母さんがいきなり部屋の扉を開けた。
律ならこういうことはしょっちゅうだけど母さんがノックをしないで僕たちの部屋の扉をあけたことはない。
怪訝に思いながらも抗議をしようとして、その言葉がとまる。
「……母さん、どうしたの?」
何故なら母さんの顔色は真っ青で、ひどく思い詰めたような表情をしていたからだ。
「母さん、具合悪いの? 真っ青だよ?」
律も母さんの様子がおかしいのに気づき、心配そうに訊ねている。
「……陽馬も律もちょっと下へ来なさい、父さんが呼んでるわ」
しかし僕たちの問いかけに応えることなく母さんはさっさと部屋を出て階段を降りて行く。
僕と律は顔を見合わせると母さんに続いた。
リビングでは父さんが腕を組みながらソファに座っている。
父さんの前のテーブルの上には数枚の紙が乱雑に散らばっている。
あれは……写真?
僕は凄く嫌な予感がした。そしてそのお予感は的中する。
「律、陽馬、この写真はなんだ?」
父さんが写真をこちらの方へと滑らせ、固い声で聞いて来る。
その写真は……僕と律がラブホテルへと入っていくところを撮ったものだった。
こんな写真が撮れるのは、永井か律子さんかのどちらかだろう。
僕たちの中を裂くために送ってきたのか。いや、そんなこと今は関係ない。父さんと母さんをごまかさなきゃ。
「おまえたち二人でこんなところへ行って何をしてたんだ?」
父さんが鋭い目つきで僕らを交互に睨んでくる。
ああ……とうとうこんな瞬間が来てしまった。
僕と律が愛し合ってることを両親に隠し、普通の家族を装い暮らしていく平和な日々が壊れてしまう瞬間。
できることなら一生来て欲しくなかった瞬間。
「何で黙っているの? 二人とも何とか言いなさい」
母さんがいつになく険しい顔で畳みかけて来る。
どうすればいい?
リビングが静寂に包まれる。
僕は隣に立つ律の方を見ることさえできずにいた。
だって律を見ればきっと僕は自分の気持ちを隠し切れないから。
だから律がどのようにこの局面を迎えているのか知ることもできない。
僕は必死に頭を働かせて考えた。
……そうだ! 僕が無理を言って律にラブホテルに連れてって欲しいって頼んだってことにしたらどうだろう?
ラブホテルなんて一度も行ったことのなかった(これは本当だし)僕が、社会勉強のため律に無理を言って連れてってもらったってことにすれば……なんとかごまかせるかも。
で、結局中に入って、こんなものなんだーって出て来たって言えば。
演技に自信はないけど、それ以上いい考えが浮かばなかった僕が、殺気だってると言ってもいい父さんと母さんの前で口を開こうとしたとき。
「愛し合ったよ、俺と陽馬はそこで」
律の凛とした声がリビングに響いた。
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