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第123話 束の間の別れ?

 ひとときの抱擁のあと、律はおもむろに荷物をまとめ始めた。 「律? 何してるの? どこか行くの!? まさか……」 「ああ。この家を出るよ。もう流石にここにはいられない」 「じゃ、じゃあ僕も一緒に行く!!」  律と離れるなんて考えられないから、そう言ったのに、律はゆっくりと首を横に振った。 「もう少し待ってくれ。とにかく俺が自立するのが先だ。今のまま二人で出て行っても共倒れになっちゃうだけだよ。……この家に残る陽馬の方がきっと辛い思いをするだろうけど……ごめんな」  そしてまた黙々と出て行く準備をする律の背中に縋りつく。 「やだ! 僕は律と一緒なら、どんなボロ家だって構わないし、大学だってやめて働くから……」  律は僕の方を見ると、すごく辛そうな顔をした。 「ごめんな……陽馬」 「えっ……?」 「……もう嘘をつきたくないって俺の我儘の所為で陽馬にまで苦しい思いさせちゃって。……それにおまえの大学の学費は父さんが出してるから、もしかしたらやめさせられるかもしれない。カミングアウトしたこと後悔はしてないけど、そのことだけは陽馬にすまないことをしたって思ってる」 「そんなこと言わないで。僕は律みたいに夢があって大学に行ってるわけじゃない。ただ漫然と通ってるだけなんだから。やめさせられても何とも思わないよ。明日から働いてもいいから律と一緒に連れて行って」  律は綺麗な薄茶色の瞳で僕のことをジッと見つめていたが、やはり首を縦には振ってくれなかった。 「まだ、だめ。もう少しだけこの家で待ってて」  律は荷物をまとめ終えるとゆっくりと立ち上がり、僕にキスをすると。 「しばらくは友達の家に泊めてもらいながら、住むところを探すよ。陽馬、毎日電話するから」 「やだ、やだ。律」 「陽馬、そんな顔するなよ。会おうって思えばいつでも会えるんだから」  無理してるって分かる笑顔で律が言う。 「愛してるよ、陽馬」  最後に愛の囁きを残して律が部屋を出て行く。  何度愛し合ったか分からない僕たちの部屋を。

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