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第124話 束の間の別れ?2

 律が階段を降りて行く音が聞こえても僕はその場で微動だにせずに立ち尽くしていた。  どうやら現実逃避というか放心状態というかそんな感じだったんだと思う。  律がこの家から出て行ったなんて悪い夢のような気がして。  夢なら早く覚めて。  また隣で律が勉強を教えてくれ、油断したら唇を奪われ、そのままベッドに押し倒され、父さん母さんの目を盗んで愛し合う。  そんな時間が戻って来て欲しい。  僕がたった今出て行った恋人の面影を求めていると、ドアがノックされて母さんが顔を覗かせた。 「……律くん、出て行っちゃったの?」 「…………」  声が喉に詰まって出ない。 「どうして……どうして、こんなことになってしまったの? あなたと律くんは男同士で家族なのに……」  母さんの声はとても小さくて消え入りそうだったけど、僕と律の仲を嫌悪する響きがあった。  いくら世間が同性愛に寛大になっても、いざ自分の息子がそうだと知れば、やっぱり差別されてしまう。仕方ないことだけどやはり悲しい。 「律くんが誘ったみたいなこと言ってたけど、陽馬、どうして拒まなかったの? 興味本位でしていいことじゃないのよ」 「違うっ……!!」  まるで全てが律の所為のように言われて、ようやく僕の口から言葉が飛び出した。 「そんな律が悪いふうに言うのやめてよ! 興味本位とか軽い気持ちじゃないし、さっきも言ったように僕も律も真剣に愛し合ってるんだ」 「陽くん……」  僕は震える手をキュッと握りしめると、困惑している母さんに向かって告げた。 「母さんにはずっと隠してたけど、僕は、女の子を好きになれないんだ……ゲイ、なんだ」 「……!」  母さんが息を呑んだのが分かる。 「だから、最初に好きになったのは僕の方なんだよ」  初めて会ったときにはかっこいいなって思った。  それから自慰の指導をされるとか律には振り回されてばかりだったけど、気づけば虜にされていた。 「少し一人にして、母さん」  今は母さんの気持ちを思いやる余裕はないんだ。ごめんね。  パタパタと床に涙が零れる。  母さんはもう何も言うことなく部屋を出て行った。  再び部屋に一人残された僕はベッドに座り込み声を殺して泣いた。

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