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第134話 VS母さん

「か、母さん、どうして?」 「学くんが連絡くれたのよ。でも心配することなんかなかったみたいね」  母さんが怒った声で言った。そして呆れたと言ったふうに首を振り、続けて言い放つ。 「本当に親の心子知らずって言う感じだわ」  流石に僕はむっとして言い返した。 「母さん、律は具合が悪いんだよ。今そんな嫌味言わなくてもいいじゃないか」  そんな僕を律がとめる。 「いいんだよ、陽馬」 「でも、律……」  言い合う僕たちを見て母さんが重い溜息をつきながら分厚い封筒を僕たちの方へと差し出した。 「お父さんからよ。ここの入院費と律くんの学費が入ってるわ」 「父さんが?」  もしかして、僕たちのこと許してくれる気になったのかな……。  僕の顔がパッと明るくなったのを見て母さんは釘を刺した。 「誤解しないでね。お父さんも私もあなたたちの仲を認めたわけじゃ決してないわよ。……ただね、我が子が過労で倒れて平気でいられる親なんていないの、分かった?」  僕は少し落胆してしまったのだけど、律は遠慮がちにその封筒を受け取ると、言った。 「ありがとう。正直言ってすごく助かる。父さんに言っといて。このお金はいつか必ず返すからって。勿論母さんから援助してもらってるお金も必ず返すよ」  凛とした律の声に母さんの顔が少し寂し気に曇る。 「律くん、大人になったわね。……不思議だわ、律くんみたいに容姿にも恵まれていて、しっかりした子がどうして陽馬みたいな冴えない子を好きになったのか」  ……ひどい言われようだがそれは僕自身が思っていることでもあったから何とも言えない。  でも律はにっこりと笑うと母さんに向かって言葉を紡いでいく。 「母さんは陽馬の本当の美しさを知らないからそんなふうに言えるんだよ。陽馬は綺麗だよ、顔も性格も魂も」 「…………」  流石にここまで褒められると恥ずかしい。律のおかげで以前よりは自分に自信を持てるようにはなったけど、そんな、律が言うほど僕はいいもんじゃないよ。  母さんも同じように感じたみたいで、手に負えないと言ったふうに再び首を横に振ると、 「お大事に、律くん。何か本当に困ったことがあったら……こんなことになる前に連絡するのよ」  最後に親らしい優しい言葉を残して病室をあとにした。  再び二人きりになった病室。 「陽馬、おいで」  律が僕を呼ぶ。  パフンと律の腕の中に凭れると優しく髪を撫でてくれる。 「なぁ、陽馬、少しずつでいいから父さんと母さんにも認めて欲しいな、やっぱり。俺たちのこと」 「……ん」  本当に。  父さんが母さんに託したお金。  あれが雪解けの兆しだといいなって思う。

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