＊ 　数か月後の大安吉日。 　僕と律は郊外にある小さな教会で結婚式を挙げることになった。 　招待客は学と学の彼女、律の方の友人数名。誰もが僕たちの関係に一欠けらの偏見も持たない人たちばかりだ。 　……一応、父さんと母さんにも招待状を送ったのだが来てくれる可能性はほとんどないだろう……悲しいけれど。 「陽馬、ちょっとジッとしててな、ルージュ塗るから」 　律に声をかけられて僕は目の前の彼を見た。 　眼鏡を外しているから幾分ぶれて見えるがそれでも律の白いタキシード姿は破壊的にかっこいい。もう三次元の人間だとは思えないくらいだ。 　そして僕はと言えば、律がデザインし仕上げた華麗なウエディングドレスを身に着け、まな板の鯉よろしくメイクをほどこされている。 「よし。できた。ほんとにうすーくメイクしただけなのに、綺麗さがすごく増したよ、陽馬」 　律は満足そうだけど、僕なんかがメイクしてもそう変わらない……いや、かえって気持ち悪くなるだけなんじゃないだろうか。 「……それにしても律、メイクのやり方なんて、どこで覚えたの？」 　僕の素朴な疑問に、律は少しバツが悪そうに答える。 「見様見真似ってやつ？」 　僕はピンときてしまった。 　女の子にモテにモテる律。きっと彼女たちのメイク風景を何回も見てるはずだ。 　やきもちを焼いた僕が不機嫌に律を睨むと、彼は苦笑した。 「せっかくの結婚式になんて顔してるんだよ、陽馬」 「だって……」 　撲がすねてみせると律は額にキスをし。 「過去は過去だろ。今の俺は陽馬だけのものだよ」 「……うん」 　僕たちが抱き合っていると扉がノックされた。 「おーい、まだ式始まらないのか？」 　学だ。 　僕は慌てて律の体から抜け出すと、扉を開ける。 「うぉっ！？」 　僕の姿を見ると学は素っ頓狂な声を上げた。 「な、なんだよ？」 「おまえ、陽馬か？　めちゃくちゃ可愛いじゃないか」 　学の言葉に律が返答する。 「だろ？」 「佐藤律の魔法、恐るべしだな」 「陽馬の元がいいからだよ」 「はいはい。ごちそうさま」 　僕は二人のやり取りを聞きながら、すぐ傍にある鏡の方におずおずと視線を送った。 　眼鏡をかけていないのでぼんやりとした自分が映っている。鏡の中の僕は不安そうだけど、　　学の言葉を聞く限り、そんなに変ではなさそうで少し安心した。 「じゃ陽馬、先に行ってるから」 「う、うん」 　緊張で声が震える。 　一生に一度の僕と律の結婚式が始まる。