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序章4-5 ※流血、死ネタ
「司っ……お前……どうしてこんなことになったんだ……う、うぅっ……」
己の股間に跨って羞恥心の欠片もないアクメ顔をさらす後輩を見上げ、想悟はしくしくと泣いていた。
こんな風に拘束されていては、どれだけ助けたいと願ってもやはり無理だった。
何より司がこんな行為を望むほどに人格を破壊されてしまったことがやりきれない。
さらには、司の肛肉の収縮をぐっと下半身に力を込めて堪えていないと、今にも欲望を暴発させてしまいそうな自分が、惨めでたまらなかった。
「さて……。皆様、今ここに立派に己が務めを果たした司に、盛大な拍手をお願い致します」
鷲尾が言うと、広間に割れんばかりの拍手が起こる。
あまりのショックに、想悟にはもう周りの声が半分聞こえなかった。
「さあ、司。これがお前の最後の仕事です。もちろんできますね」
鷲尾から司にギラリと光る刃物が手渡される。
想悟は仮にも歴史を教える教師として、勉強の過程で本物は何度も見たことがあった。
紛れもない、腹を切る為の短刀だ。
司はその光沢をうっとりと見つめ、生唾を呑み込んでいる。柄の部分を両手で握りしめると、その刃先をあろうことか自分へと向けた。
想悟の半ば虚ろな瞳が、改めて絶望色に染まっていった。
たまらなく嫌な予感がした。ガチガチと歯の根が鳴るのを抑えきれない。
そんなまさか──この予想だけは当たってほしくないと願った。
「父さん……母さん……西條…………私も今、そっちに逝きます……あはっあははははははは……!」
「やめ────!!」
想悟は声を裏返らせながら叫んだ。
だが──。
「お゛っ…………が、ァ……うげぇ…………ッ」
──間に合わなかった。こんな風に拘束されている状態では、何もできなかった。
刃は、司の腹に深く突き刺さっていた。
凛々しかったはずの司の目がぐるんっと上を向き、わなわなと全身を震わせながら、それでも最後の力を振り絞って一文字に掻っ捌いた。
ビシャリと噴き出した鮮血が、想悟の頭から下半身にまで飛び散る。
時代が時代ならば称賛されたであろう、見事なまでの壮絶な切腹であった。
しかしこれだけでは死ぬには時間がかかる。鷲尾が虫の息である司の髪を掴んで、ほっそりとした首筋をそろりと撫でた。
「よくできました、司。とても偉かったですよ」
「あ……は…………」
こんな極限状態でも褒められれば嬉しかったのだろうか? 司は笑おうとした。
しかしそれよりも早く、鷲尾がスラックスのポケットから取り出したバタフライナイフを使い、いかにも慣れた手つきで素早く司の喉を切り裂いていた。
司の瞳から光が消えた。今度こそ絶命したのだ。
彼の返り血を浴びながら、想悟は目の前で繰り広げられる惨劇を、どこか非現実なもののように見ていることしかできなかった。
「想悟様」
顔の前でひらひらと手を振られて、想悟は我に返る。
目の前には、ぴくりとも動かない血まみれの司がいる。
その横には晴れ渡るような笑顔の鷲尾。そして、鷲尾以上に満足げな笑みを悪趣味な仮面で隠す会員共。
「ああ、良かった。意識ははっきりしているご様子で。……あれ? もしかして、傷付いてます? そうですよねぇ、想悟様の大切な童貞がこんな中古品のクズ奴隷で奪われてしまっただなんて嫌になりますよねぇ」
「…………ふ……ざ、けんなよ……てめえら……」
一生に一度しかない経験を、このようにおぞましい形で失ってしまった後悔がないとは言えない。
けれど、そんなことは全て、今の想悟にはどうでもよかった。
「人を……こっ……殺しておいて……なに、笑ってられるんだよっ!?」
「殺したなんて、人聞きの悪い。死を選んだのはこいつでしょう、私はこれ以上苦しまぬように介錯をしてやったまでですよ。それに……」
鷲尾のへらへらとした笑みが、すっと引いていった。
もう二度と動くことのない司を想悟から引き離すと、繋がっていた箇所からドロッ、と濃い白濁が垂れ落ちてきた。
「あなたも、同類ではないですか」
放たれたばかりの、まだ温かみのある精液だった。司の直腸で中出ししたものだ。
想悟は、自らも気付かぬうちに、射精していたのだ。
「あ…………」
理解が追いついてくるのと同時に、まだ精力を保ったままであった想悟のペニスはくたっと萎えていった。
射精後特有の倦怠感が襲い、呆然としていることしかできなかった。
どうしてだろう。何故、こんなことになったのだろう。疑問ばかりが脳髄を支配する。
自分は何か悪いことをしたのだろうか。そうだ、していた。
いくら身動きのとれない状態にされていたとはいえ、あんな風に痛々しい姿をした司を前に勃起した。
あげく、殺される司に興奮して、射精した。
異常な性癖を持つことをひた隠しにして──善人ぶって生きていた。
その瞬間、声にならない感情が足の先から脳天に駆け抜けた。
「────ッ!! ぐっ……ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「我が地下クラブへようこそ、霧島想悟様……ふふふ」
「君の今後に期待しているよ、霧島先生……」
鷲尾と世良の悪魔の囁きを筆頭に広間には再び拍手が巻き起こり、想悟の悲しい咆哮をかき消した。
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