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序章7-3
「恥ずかしがる必要はありませんよ、想悟様。あなたはその素晴らしい能力で人を利用し、従わせたい。人を物のように扱って、支配したい。そうお思いになっている。……違いますか?」
心の奥底に秘めた衝動を言い当てられ、心臓がどきりとした。
想悟の目が泳いでいるのを見て、鷲尾はさらに声を上げて笑った。
「失礼ながら、俺はあなたと違って何の特殊能力も持ち得ない凡人ですよ。けれど、そんな俺にも考えを当てられてしまうほど、今のあなたは平和ボケしている……それでは実にもったいない」
「こ……こんな醜い願望が許されるはずがない……は、犯罪なんだぞ……」
「ここでは全てが許されます。誰よりも優しく、義理堅い、それがこのクラブなのです」
「……まるで新興宗教の謳い文句だな」
「ふふ、そうかもしれませんね。ですが実際に、このクラブには一時の満足を求める欲深い人間達が、毎夜大勢集います。クラブは今の社会にとっての必要悪なのですよ」
「……ふん」
なにが必要悪だ。そう怒鳴りたい気もしたが、何故だか納得できる部分もあることに想悟は愕然とした。
初めてここに来た際、鷲尾に長年悩み苦しんできた己の存在を、能力を肯定され、安堵してしまった自分がいる。
まさに、心の隙間に入り込むような施設だった。
「……奴隷は、学園の人間なら誰でも……男でも、いいのか」
「はい、もちろんでございます。生徒でも教師でもその親兄弟でも。ふふふ、早速やる気が出てきましたか?」
「聞いただけだ。俺はまだ……そんなことをしないでお前らを潰す方法を探す」
本当は、そんな方法は存在しないと頭の片隅ではわかっている。
クラブを回る中で見かけた人間の中には、仮面のせいで実際にはどうかわからなかったが、財界の重要人物や警視総監と見られる者もいた。
そうでなくとも、今や霧島家の子息ということで各界に顔を知られている想悟である。
例え公にクラブの存在を訴え出たところで揉み消されるだけなら良い方で、最悪、想悟も、蔵之助もろとも闇に葬られるかもしれない。それだけは避けたかった。
ならば、多少の犠牲は、仕方ないのかもしれない。柄にもなくそのような無責任な思考に陥った。
「人手が必要になれば、すぐにご連絡くださいね。あなた様のお力になれることならば、何だってサポートしますから」
「うるせぇよ」
悪態はついているものの、この分では近々彼らに協力を仰ぐことになってしまうのかもしれない──そう漠然と、このクラブに堕ちつつある己の腐った心を呪った。
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